storm 11 - 15
(11)
「どうかしてるよ。おかしいんじゃないのか、あんた達は。
そりゃ、ボクが女だって言うんなら、あんたの言う通りかもしれないけど、ボクは男だ。
いくらがっついてるからって、男のくせに男に欲情するなんて、どうかしてるんじゃないか!?」
「女じゃなくても、女以上に男心をそそるんだよ、おまえは。」
激しい怒りのために無防備になったアキラの両手首を捉える。だがアキラは抵抗しようともせず、
ギリギリと加賀を睨み上げる。
そんなアキラの身体を、両手首を押さえつけたまま、上から下までゆっくりと眺めた。
「髪も、目も、唇も、肌も、体つきも、そこらの女なんかかなわねぇくらい魅力的だよ。」
だがアキラは弄るようなその視線に、羞恥に目を逸らすよりも、抗議の意思を込めて加賀を睨みつけた。
「ほら、その目だ。
ゾクゾクするよ。そういう目を見ると。
そんな挑戦的な目で睨んだって、益々相手をその気にさせるだけだ。
おまえだってそうじゃねぇか?
弱っちい相手よりも勝つか負けるかの勝負の方がゾクゾクするだろう?」
「いい加減な事を言うな。
そんな事を言いながら暴力で無理矢理犯すのか?
ふざけるな。そんな事と、こっちの真剣勝負を一緒にするな。」
「変わんねぇんだよ、普通の男にとってはさ。
逃げるが勝ち、って言葉もあるんだ。
煽られたら煽り返すだけじゃなくて、逃げる事くらい覚えろ。」
「余計なお世話だ!!」
(12)
唐突にぱっと電気が点いた。
二人とも咄嗟に上を見上げた。
明るい蛍光灯の下だと、急にこの状況が馬鹿馬鹿しく見えてくる。
アキラの手首を掴んでいた手を放し、彼の身体から眼を逸らした。
そして床の上に捨てられていたジャージを投げるようにアキラの頭の上に放って、言った。
「服を着て、帰れ。」
その時また、ふっと灯りが消えた。
風がガタガタと窓を揺らす。
木々の梢がざわめく音が聞こえる。
吹きすさぶ強風の音に、ざわり、と背筋が震える。
一旦は鎮まりかけた獣性を嵐にまた煽られ始めているのを感じながら、必死にそれをこらえた。
けれど、目の前にうずくまる、熱く激しい瞳を持った美しい獲物から、目を離せなくなってしまった。
胸の中に荒々しく滾る熱い血を、どうやってこのまま押さえつけておく事などできるだろう。
投げかけられたジャージを掴んだ手が、小さく震えている。彼の身体を震わせるのは怒りなのか?
何をしている。
オレがオレの中の獣を抑えているうちにさっさと帰れ。オレの目の前から消えろ。でないとオレは…
声には出さない呼びかけが聞こえたかのようにゆっくりと彼が振り向いて顔を上げた。
更に濃さを増した暗がりの中で黒い目が光っている。
「とう…」
唐突に彼の手が伸びて強引に加賀の頭を引き寄せ、乱暴に唇を重ねた。
咄嗟の事に、加賀は抗えなかった。
(13)
「何の、つもりだ…」
そのまま至近距離にとどまるアキラに向かって、今度は逆に加賀が尋ねた。
「何を考えている。」
自分の声が掠れ、僅かに震えかけている事実が、認めたくない感情の乱れを告げている。
「支払いだよ。
怪我の治療費と、ありがたいお説教の講演料と、それから雨宿りの場所代とね。」
心持ち見下ろし加減の目で見据えたまま、冷たい声が告げる。
「それに、」
アキラはすっと目を伏せて、若干、頭を引いた。
先ほどより位置が離れたせいもあって、伏せられた睫が視界に入り、妙に胸が騒ぐ。
「外はまだ土砂降りで、ボクはこんな天気の中、外に出て行きたくはないんだ。」
言いながらゆっくりと見上げる目が、真っ直ぐに加賀の目と相対する位置で止まる。
黒い瞳の中に先程の燃え上がる怒りの炎は既に見えず、濡れて光る瞳の奥に、加賀は別の色を
見つける。逃がれられずに見つめていると、視線をそらさないままに、アキラがすっと目を細めた。
唇の両端が僅かに引き上げられ、笑みの形を形作る。吸い込まれるように、加賀はゆっくりとそこ
に顔を近づけていった。アキラの唇は、ためらいがちに触れる加賀の唇を享受し、戸惑いの残る舌
を誘い込むように僅かに開かれた。
(14)
「塔…矢、」
息苦しさに唇を離して彼の名を呼ぶと、それに応えるように眼前に迫る目がこちらを真っ直ぐに見
ている。情欲に彩られた黒い瞳には、僅かな怯えも惑いも、揺らぎさえ、ない。むしろ挑むように、
誘うように見つめる瞳の、その深い欲望の色に飲み込まれそうになる。それなのに視線に呪縛され
たかのように目をそらすことができない。
迷いを振り切るように、彼の身体を引き寄せた。女の身体のような丸みも柔らかさもないその身体
は、抗いもせず身を任せる。両腕をだらんと垂らしたままの肩を掴み、今度は乱暴に唇を塞ぐと、
彼の舌がすかさず侵入してきて、予想外の反応に思わず身を引きそうになる。
ふと気付くと、知らぬうちに後ろに回された手が、指先が、そろりと背を這い始めるたのを感じて、
背筋が震える。その反応を楽しむように、指先はゆっくりと背骨を辿る。触れるか触れないかの僅
かな刺激に、皮膚が緊張する。
這い上がってきた指先が首筋から耳元を掠めると、耐え切れずに頭を振って、その刺激から逃れ
ようとした。そして目の前の白い肩口に噛み付き、歯を立てると、彼は小さな悲鳴を上げ、顔を反ら
した。その白くのけぞる喉元に吸い付き、首筋に沿って舌を這わせると、動脈を走る熱い血流を、
脈動を感じる。耳元で荒い息遣いが聞こえ、腕の中の身体はまるで燃えるように熱い。
そのまま抱えていた身体を横たえようとすると、不意にその身体が逃げ、逆に自分が仰向けに肩
を押さえつけられた。
不意打ちの動きに呆気にとられていると、喉元を軽く舌先がかすめた。
その舌先が今度は腕をぺろりと舐める。ぴりっと走る痛みに、そこが、先程ハサミの切っ先が掠め
た傷口だと知る。傷口をゆっくりと舐め上げられると背筋がぞくりと震え、皮膚が粟立ち、思わず、
うめき声を漏らした。
「…く…うッ……」
その声に彼は微かにわらったように思えた。
そして腕から顔を離すと、今度は、ためらいもせず股間に顔を寄せてきた。
(15)
「やっ、やめろっ…塔矢…!」
思わず彼の頭を押しのけて身体を起こし、逃げようとした。
「何を逃げるの?」
髪を掴まれたまま、彼が顔を上げて問う。
「口でされるのなんて初めてって訳でもないだろ?」
そんな事はない。ないけれど…だが、そこらへんの女と、塔矢とは違う。
こいつにそんな真似をさせるわけには…
だが、膝立ちになって後退さろうとする加賀の腰が捕らえられ、躊躇している間に、アキラは加賀を
口に含んだ。絡み付くように舐め上げられるのを感じる。熱いアキラの口内に眩暈がする。
我慢ができず、アキラの頭を押さえて、自分から抽出を始めた。激しく抽挿を繰り返すうちに加賀は
弾けそうな快感と共にアキラの内部に欲望を放出した。
自分のしてしまった事が信じられなくて、ハァハァと荒く息をついて、眼下のアキラを見下ろす。
けれどアキラは満足そうな笑みを浮かべて、加賀を見上げていた。そして口の端からこぼれた白い
精液をぺろりと舌で舐め取った。
思わず彼の身体を押し倒し、脚を開いて彼の股間にそそり立つものをしゃぶった。自分で自分が
信じられなかった。いくら相手が塔矢だからって、男のアレを自分で口に入れるなんて。
けれどそんな事よりも、塔矢の全てが欲しいと思う気持ちのほうが強かった。
根元から舐めあげ更に先端を舌先で弄ると、その下でアキラが震え、そして頭上で声をあげる。
もっと鳴け。その声をオレに聞かせろ。
加賀の口内でアキラが硬く膨れ上がる。裏筋を舐め上げ、更に先端を刺激するように舌先で弄る。
そしてもう一度、できるだけ奥まで口に含んで締め付けるようにしゃぶると、加賀の口中でアキラが
弾けた。加賀はそれを飲み下し、更にこぼれた分も一滴も残らず舐め取った。
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