遠雷 13
(13)
拷問にも煮た直腸洗浄で、刺激に過敏になっていた肉壁が、ぬるりと侵入してきた指にわななく。
アキラの脳裏に芹澤の指が浮かんだ。
黒石を挟む長い指は、爪の先まで手入れが行き届いていた。
対局のたび、何気なく眺めていたことが、いま改めて思い出される。
疲れ切った体には、恥しらずな指を拒む力はもうなかった。
無駄だとわかってはいたが、もう長いこと咥えさせられているギャグに歯を立て、必死に堪える。
――――うぅ、うー
耳に届く獣めいた唸り声が、自分が発しているものだと信じたくはなかった。
芹澤の指が、ぐるりと内部で動いた。
思わず、全身に力が入る。
再び閉ざした瞼の裏に、芹澤の凶悪な笑みが浮かんでは消える。
尊敬していた棋士の、もう一つの顔にアキラは戦慄を覚える。
どうしても信じられない。
静かな佇まいで、碁盤をにらんでいた彼の姿に、憧れに近い感情を持っていた。
彼の碁には品格があるといっていたのは誰だったろう。
父ではなかった。
森下さんだったか、桑原さんだったか……。
誰が言った言葉だったかは思い出せなかったが、自分もそのように理解していた。
芹沢は、品のある美しい碁を打つ、と。
自分もそのような碁打ちになりたい。
アキラはそう思っていたのだ。
そんな人物が、いまこのような愚劣な行為で自分を苛んでいる。
アキラにはどうしても信じられなかった。
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