黒の宴 13 - 14


(13)
「何を…」
そう言いかけて押し黙った。何か言おうとすればすぐにでもほぼ鼻先が触れあう位置にある
社の唇が塞がって来そうだった。
アキラは社の目を睨みつけた。社はそんなアキラの表情をじっくりと観察するように眺めていた。
同い年には思えない、捕らえた獲物の価値を目でじっくり吟味するような狩人のような目だった。
そうして暫く互いの視線をぶつけ合ったあとで社は静かに言葉を発した。
「…あんた…さっきの対局で、打ちながらイキそうになったやろ。」
アキラは一瞬目を見開き、目を反らした。否定するにもほぼ瞬時にカッと顔に血が登って
しまっていた。
「恥ずかしい事ないで…オレも時々ある。相手がごっつう色っぽい年上の姉ちゃんだったりすると、
やけどな。」
顔を背けているアキラのこめかみから頬、顎にかけて息を吹き掛ける。そうして顎から首の方を
チロリと舌で舐めた。
「…っ!」
ゾクリとする感触に反射的にアキラが肩をすぼめて顎を戻しその部分をガードする。
アキラ社の唇がほぼ間近に向かい合った。社はそのアキラの下唇をスーッと舌で舐めた。
「やめ…」
アキラが顔を振って社の舌から逃れる。社は追いかけっこを楽しむように
アキラが顔を向ける方に顔を寄せて来る。その一方で下腹部をアキラの下腹部に強く押し付けて来ていた。
「欲しいんとちゃうんか」
社の固くなった部分が伝わって来る分、こちらの高まりも知られてしまっている。
碁会所を出て静まりかかっていたアキラの分身は瞬時に熱を取り戻していた。
社が若干膝を上げてアキラのそこを摩るように動かした。アキラの唇から小さく悲鳴に近い声が漏れた。


(14)
そのアキラの悲鳴を消そうとするように唇の上に社の唇が乗っかかって来た。
「ん…っ!」
下の唇に吸い付き舐め回すようにして、次に上の唇に吸い付いて来る。そうしてアキラの
薄く形の良い唇全体を覆うようにして来たかと思うと様々に角度を変えて文字どおりアキラを貪る。
一瞬息を継ぐために僅かに離れて社はアキラを見つめ、再び激しく口付けてくる。アキラの手首を掴んでいた
左手を離すと今度はアキラの顎を押さえ込んで固定し、口を開けと言わんばかりに頬に指を立てて
力を入れて来る。余りの握力に痛みでアキラが思わず閉ざしていた歯列を開くと社の舌が内部に侵入し、
アキラの舌を捕らえた。
相手はヒカルではない。それは分かっているのだが、音を立てて口内のあらゆる部分を
舐め回され舌同士を絡ませられると意識がどこかへ持っていかれそうになる。
体内の奥深くで揺れ動いていた小さな炎が一気に全身に転位しそうになる。
心で強く拒否していても、次第に体から力が抜けて行く。
社がアキラの頬に痛々しい程の蒼い指の痕が浮き上がっているのに気がついた。
「…痛くさせるつもりはないんや」
社は恋人にするように今度は優しくアキラの顎を持ち直し、柔らかいキスをして来た。
炎が、広がってしまう。
力が入らない腕でアキラは社の体を押しやろうとした。だが鋼鉄のように社の体はびくとも
しない。むしろ衣服を通して社の筋肉質な腕や胸の質感が伝わって来てアキラの感覚を刺激した。
熱い肉体が迫って来る。その肉体を欲しがるものがアキラの中に棲んでいる。
獣のような炎と結びつきたがっている炎が、アキラの中に存在していた。



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