黒の宴 21 - 23


(21)
社が腰の動きを急速に速め、アキラのペニスを強く擦りあげる。
「ふうっ!…んんっ…、んーっ!!」
一気に駆け上がって来る快楽にアキラは体をくの字に曲げて局部を抱え込もうとする。
それをさせないように社が上半身を使ってアキラの体を押さえ込み、
限界を越えたその部分を刺激し続ける。
「や…や…っ、いや…あっ…だ…っ」
嗚咽が混じった悲鳴を上げてアキラの体がガクガクと震えるが社は行為を止めなかった。
さすがに何度も吐き出した後で、社が高まり行き着くまでにはまだ少し時間を要した。
それでも少しでもアキラから甘い蜜を搾り取ろうとするようにアキラの感覚を激しく刺激する。
「…あんたのその声…好きや…ゾクゾクする…」
拷問のような刺激を与えるだけ与え、ようやくアキラの体内に放った社はゆっくりとアキラから抜け出た。
ほっそりした白い膝を抱え、左右に大きく開いたまま今まで自分を飲み込んでいた部分に魅入る。
長く押し広げられていたそこは閉じる力を無くして、充血した内壁を花を咲かせるように
惜し気もなく曝していた。
社が吐き出した白い体液にまみれて光り、さらに中心部から一雫の白い道を作って下に落ちる。
社は戦利品を眺めるような満足した面持ちでそれを眺めた。

ほぼ終電に近い新幹線に乗るために二人は東京駅に向かって中央線に乗っていた。
ドア付近に並んで立ち、アキラは社と目を合わせまいと背を向け手すりに捕まるようにしていた。
疲労感で膝ががくがく震えた。見送らなければあの事務所で朝まで抱くと社に脅されたのだ。


(22)
社はホームまでアキラを同行させた。
アキラの中性的な容姿を良い事にまるで恋人同士のように肩を抱き、新幹線のドア付近で
発車までの間の包容を楽しんでいる。
他にもにたような別れを惜しむカップルがホームに点在し誰も特にこの二人に
注意を向ける者はいなかった。
普通席のチケットをあらためて購入した社は座席を確保する事など二の次に、少しでも
長くアキラに触れている事を選んでいた。
「またすぐに上京する…そん時は…」
発車を知らせるベルが鳴り始めた。
「…またお前を抱く…」
ほとんどのカップルが軽く交わす程度のものですます中、社はアキラの唇を深く長く味わい、
アキラの唇を指で辿り、アキラの黒髪を指で梳いた。そうして車中の人となった。
社が離れてすぐにアキラは階段の方へ向かおうとした。
「…やっぱり男の子同士なんじゃないの?ホラ、」
あまりに濃厚なラブシーンに思わず足を止めた女性同士がひそひそ話すのが聞こえて来た。
足早にそこからアキラは立ち去った。
動き出した新幹線のドアの窓か見つめ続ける社の視線から逃れるように。
「手に入れたる。北斗杯の座もあいつも。全てオレのもんや…」 
窓の外に様々な色に溶け合う街の光の向こうに社はまだ手や体に生々しく残る
アキラの声や肌の感触を思い返していた。


(23)
あの日、若手棋士らの研究会で男達の歯牙にかかった夜とは違ってその時はアキラは
ヒカルの元へ行けなかった。

激しく社に求められた事で内部に巣食っていた魔物のような炎は身を潜めた。だがそれはまたいつ
どういうかたちで姿を現してくるか分からない。ヒカルに会い、正常な自分を演じる自信がない。
ヒカルに対し肉体的な結びつきを求めてしまいそうな自分が怖い。
ヒカルとの対局で得られる究極的なあの高まりは、おそらくヒカルとそういう関係になった瞬間に
二度と手に入らなくなってしまいそうな気がした。

碁会所を出たと聞いていた時間からかなり遅い時間に帰宅してきたアキラに母親は
多少の心配の色は見せながらも、「本屋に寄っていた」という言葉少ない息子の説明に納得した。
アキラは何よりも先に浴室に向かった。力を入れて体を洗い社の感触を消そうとした。
胸の周辺に残る刻印が嫌でも目に入る。
今はほんのり赤く色付く程度のそれらは時間がたてば色彩を濃くしてアキラを苦しめるだろう。
男達の手によって、社の体の下で何度も到達し淫らに喘いだ自分の姿を突き付けてくるだろう。
ヒカルにそういう自分の姿は見せたくない。唇を重ねあう事はあってもあくまでそれは今、
お互いにできる最大限の深い親愛の表現だ。
それ以上のものはヒカルはまだ求めようとは思わないだろう。自分もそうだ。
…うそをつけ。
正体が分からないものの声が聞こえる。それをかき消すようにアキラは冷たいシャワーを浴びた。



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