storm 13 - 14
(13)
「何の、つもりだ…」
そのまま至近距離にとどまるアキラに向かって、今度は逆に加賀が尋ねた。
「何を考えている。」
自分の声が掠れ、僅かに震えかけている事実が、認めたくない感情の乱れを告げている。
「支払いだよ。
怪我の治療費と、ありがたいお説教の講演料と、それから雨宿りの場所代とね。」
心持ち見下ろし加減の目で見据えたまま、冷たい声が告げる。
「それに、」
アキラはすっと目を伏せて、若干、頭を引いた。
先ほどより位置が離れたせいもあって、伏せられた睫が視界に入り、妙に胸が騒ぐ。
「外はまだ土砂降りで、ボクはこんな天気の中、外に出て行きたくはないんだ。」
言いながらゆっくりと見上げる目が、真っ直ぐに加賀の目と相対する位置で止まる。
黒い瞳の中に先程の燃え上がる怒りの炎は既に見えず、濡れて光る瞳の奥に、加賀は別の色を
見つける。逃がれられずに見つめていると、視線をそらさないままに、アキラがすっと目を細めた。
唇の両端が僅かに引き上げられ、笑みの形を形作る。吸い込まれるように、加賀はゆっくりとそこ
に顔を近づけていった。アキラの唇は、ためらいがちに触れる加賀の唇を享受し、戸惑いの残る舌
を誘い込むように僅かに開かれた。
(14)
「塔…矢、」
息苦しさに唇を離して彼の名を呼ぶと、それに応えるように眼前に迫る目がこちらを真っ直ぐに見
ている。情欲に彩られた黒い瞳には、僅かな怯えも惑いも、揺らぎさえ、ない。むしろ挑むように、
誘うように見つめる瞳の、その深い欲望の色に飲み込まれそうになる。それなのに視線に呪縛され
たかのように目をそらすことができない。
迷いを振り切るように、彼の身体を引き寄せた。女の身体のような丸みも柔らかさもないその身体
は、抗いもせず身を任せる。両腕をだらんと垂らしたままの肩を掴み、今度は乱暴に唇を塞ぐと、
彼の舌がすかさず侵入してきて、予想外の反応に思わず身を引きそうになる。
ふと気付くと、知らぬうちに後ろに回された手が、指先が、そろりと背を這い始めるたのを感じて、
背筋が震える。その反応を楽しむように、指先はゆっくりと背骨を辿る。触れるか触れないかの僅
かな刺激に、皮膚が緊張する。
這い上がってきた指先が首筋から耳元を掠めると、耐え切れずに頭を振って、その刺激から逃れ
ようとした。そして目の前の白い肩口に噛み付き、歯を立てると、彼は小さな悲鳴を上げ、顔を反ら
した。その白くのけぞる喉元に吸い付き、首筋に沿って舌を這わせると、動脈を走る熱い血流を、
脈動を感じる。耳元で荒い息遣いが聞こえ、腕の中の身体はまるで燃えるように熱い。
そのまま抱えていた身体を横たえようとすると、不意にその身体が逃げ、逆に自分が仰向けに肩
を押さえつけられた。
不意打ちの動きに呆気にとられていると、喉元を軽く舌先がかすめた。
その舌先が今度は腕をぺろりと舐める。ぴりっと走る痛みに、そこが、先程ハサミの切っ先が掠め
た傷口だと知る。傷口をゆっくりと舐め上げられると背筋がぞくりと震え、皮膚が粟立ち、思わず、
うめき声を漏らした。
「…く…うッ……」
その声に彼は微かにわらったように思えた。
そして腕から顔を離すと、今度は、ためらいもせず股間に顔を寄せてきた。
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