遠雷 20


(20)
アキラはそう思った。そう感じた。そう認めた。
恐怖は津波のようにアキラを飲みこんでいく。
黒い悪魔は、体内に群がるだけではあきたらず、全身を覆い尽くしていく。
その連想にアキラは、震えた。
肌の上を這いまわる、蟻。
簡単に踏み潰すことのできる存在が、いまアキラを蹂躙している。
知覚と感覚の混乱の中、アキラは激しく身を捩った。
できうる限りの抵抗を、狂ったように続けていた。
手首が戒められていることも、無理な姿勢を取らされていることも、思い出す余裕などなかった。
頭をうち振るう。腰を左右に振り、上下に動かす。膝から下を必死になってばたばたと動かしてみる。
あらん限りの力で手を動かす。
それでも、無数の蟻は、這い回ることをやめようとしない。蠢くことをやめようとしない。
アキラの瞳から、初めて涙が零れた。
それは生理的な涙だ。
感情が零すものではない、肉体が零すものだ。

誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、…………。
この蟻を追い払って!
誰か!!



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