黒の宴 23
(23)
あの日、若手棋士らの研究会で男達の歯牙にかかった夜とは違ってその時はアキラは
ヒカルの元へ行けなかった。
激しく社に求められた事で内部に巣食っていた魔物のような炎は身を潜めた。だがそれはまたいつ
どういうかたちで姿を現してくるか分からない。ヒカルに会い、正常な自分を演じる自信がない。
ヒカルに対し肉体的な結びつきを求めてしまいそうな自分が怖い。
ヒカルとの対局で得られる究極的なあの高まりは、おそらくヒカルとそういう関係になった瞬間に
二度と手に入らなくなってしまいそうな気がした。
碁会所を出たと聞いていた時間からかなり遅い時間に帰宅してきたアキラに母親は
多少の心配の色は見せながらも、「本屋に寄っていた」という言葉少ない息子の説明に納得した。
アキラは何よりも先に浴室に向かった。力を入れて体を洗い社の感触を消そうとした。
胸の周辺に残る刻印が嫌でも目に入る。
今はほんのり赤く色付く程度のそれらは時間がたてば色彩を濃くしてアキラを苦しめるだろう。
男達の手によって、社の体の下で何度も到達し淫らに喘いだ自分の姿を突き付けてくるだろう。
ヒカルにそういう自分の姿は見せたくない。唇を重ねあう事はあってもあくまでそれは今、
お互いにできる最大限の深い親愛の表現だ。
それ以上のものはヒカルはまだ求めようとは思わないだろう。自分もそうだ。
…うそをつけ。
正体が分からないものの声が聞こえる。それをかき消すようにアキラは冷たいシャワーを浴びた。
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