遠雷 26 - 28
(26)
芹澤はアキラの膝を胸につくほど押し上げ、上から打ちつけるように抽送を続けた。
「あん、あ、あ、あ、あ、・・・・・・・・」
芹澤の陰茎が奥深く届くたび、アキラは短い喘ぎを零した。
「感じているというより……、生理的なものだな」
芹澤は、アキラの声をそう判断すると、膝においた両手を左右に動かした。
「ひっ」
アキラが悲鳴を上げる。足を左右に割られたことで膝裏をなめし皮の紐が擦ったのだ。
おそらく擦過傷になっているのだろう。
一瞬感じた痛みも、すぐ甘い感覚に変換される。
「塔矢君は、体が柔らかいのかな、それともっ」
芹澤の語尾が跳ねたのは、体を前倒しにして、深く刺し貫いた反動からだ。
「若いからか……」
答えを求めない問い。芹澤の口元に浮かぶ冷笑は、答えは己が暴くとでも言っているようだ。
根元まで突き込んだ姿勢で、芹澤は腰を小刻みに揺らした。
すると、アキラのペニスが、芹澤の割れた腹筋に擦られる。
射精したばかりだというのに、若いそれは固く勃ち上がる。
このまま同じ刺激を与えれば、すぐにでも絶頂を見ることができたろう。
だが、芹澤は腰の動きを止め、体を起こした。
目元を欲情に赤く染め、アキラは無意識に腰を揺らす。
突然失われた刺激を求めているのだろう。
「おい」
芹澤が声をあげると、足元で控えていた男はすぐさま立ちあがる。飼い主の背後に回ると、肌蹴ていただけのシャツを脱がす。
汗で貼りつくシャツから腕を抜くと、芹澤は男に言った。
「褒美だ」
(27)
男は芹澤の視線で、なにが許されたのかを、察知する。
「ありがとうございます」
男は、アキラの横に移動すると、完全に勃起したものを、美味そうに頬張った。
犬として躾られた男だ。その舌技は、既に実証済み。
男は口をすぼめ、いきなり喉の奥までアキラのペニスを吸いこんだ。
「あぁ……、あ―――――」
アキラのしなやかな背筋が弓なりに仰け反る。
びくっびくっと腰を突き上げる。
「好きなだけしゃぶっていいぞ」
鼻で笑いながら芹澤が言うと、男はアキラを締め上げたまま嬉しそうに頷いた。
それすら今のアキラにはたまらない快感だ。
芹澤は、アキラと繋がったまま器官で、アキラがどれほど感じているか間接的に味わっていた。
腸壁がうねっている。奥の奥まで誘いこむような蠕動に酔い痴れる。
「私はね、君を屈服させたいと思ってはいたが、支配したいわけではないんだ」
誰に聞かせるわけでもなく、芹澤は一人嘯く。
「痛みで従えるのはたやすいが、それでは君の美質、凛とした佇まいまで失われてしまう。
それは、許されることではないと思うのだよ。これは、君を解放する行為なんだ」
もしも、―――――
アキラが正気だったとしたら、いまの芹澤の言葉をどう受け止めることだろう。
なにが解放だと、怒声をあげたのではないだろうか。
ふざけるなと、席を立っていたのではないだろうか。
理性の入りこめない世界で、アキラは無心に快楽を貪っている。
生まれて初めての口腔性交に、本能は貪婪に反応する。
男の頭に手を伸ばし、股間に押し付ける。
男の口を、受け入れる性器と見たて、不自由な態勢のなか腰を上下する。
男はそれによく応える。アキラの欲しいものを敏感に察知し、口腔全体で奉仕する。
長い時間は要らなかった。
その晩、二度目の逐情は、父親と同世代の男の喉奥に叩きつけられた。
(28)
全身に染み渡る快楽に、アキラは身を任せていた。
吐精の瞬間は、神経の爆発だ。
体中の至る所に、発火装置が仕掛けられていて、それが次々に連鎖して弾ける。
ぐったりと力を無くした体が、時間差でぴくぴくと痙攣する。
それがまた快感を煽る。
蟻地獄に足を取られてしまったように、逃れる術が無い。
しかし、薬の作用で淫蕩に染められた肉体は、逃れる必要性を思い出すはずが無かった。
そんなアキラを煽るように、男は尿道に残る精子すら搾り出す勢いで吸い上げる。
チュルッという音が、体の中で響く。
「はぁ………」
淫らなため息。
男は萎えてしまったペニスを、執拗に嬲る。
先程までの射精に導くための激しいものとは違う。
舌で舐り、唇で甘噛みし、頬肉で撫で上げる。
射精の余韻を引き摺っていたアキラのペニスは、快感を隠さない。
男の舌の上で、また育っていく。それが嬉しいと、犬の呼称を受け入れた男は、若い欲望に舌を絡めていく。
芹澤は、アキラの媚態と男の痴態に目を細め、己の陰茎をゆっくりと抜いた。
それがまた刺激になったのだろう。アキラの全身が大きく震えた。
「三度目も遠くないな」
嘲笑めいた言葉を、聞く者はいない。
芹澤が、前を寛げただけのスラックスと下着を脱ぎさると、ジム通いで鍛えた全身が、白熱灯の柔らかい光の元に顕になった。
無駄な脂肪のかけらも無い、綺麗な筋肉に覆われた体だ。
まともな状態のアキラが見たならば、手筋に似ていると思ったのではないだろうか。
濡れそぼる陰茎をサイドテーブルに置いてあったタオルで拭う。
勢いはいささか失われていたが、萎える気配は無い。
もっとも、続けて上がるアキラの嬌声に、刺激されていては萎えるはずも無かったが。
芹澤は、テーブルの抽斗から鋏を取り出すと、なめし皮に刃を入れた。
金属のスライドする心地のいい音が、アキラの最後の拘束を解いた。
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