遠雷 29


(29)
男がちらりと芹沢を伺う。
その姿があさましいと、芹澤は侮蔑の表情を隠さず、ただ頷いてやった。
「犬にはもったいない回春剤だな」
男は、アキラを咥えたまま、アキラの足の間に移動する。
自由を取り戻したアキラの足が、壮年の男のたるんだ背中に左右から回された。
それを眺めながら、芹澤は次の支度にかかる。
肌に揺さしいインド綿のラグを広げたソファに腰を下ろすと、サイドテーブルから持ってきたローションをたっぷりと手のひらに取る。
少し冷たい液体を体温で温め、自分の陰茎に塗りこんでいく。
そうする間にも、アキラは声を張り上げる。
「若いな……」
喉を鳴らして回春剤を嚥下する男の恍惚とした表情を眺めながら、芹澤はそう呟いた。


半ば強引に促される射精は、間違い無く快感ではあったけれど、アキラは飢餓にも似た感覚を覚えていた。
底無し沼にも似た快楽の中に、無視できない違和感があった。
熱い塊が抜き去られたあと、直腸で存在を主張するのは、あの掻痒感。
アキラの背筋に悪寒が走った。
また、あの気が狂いそうなむず痒さを味合わなければならないのかと、恐怖が湧きあがる。
絶望にも似た思いで瞼を上げれば、自分一人ベッドの上にいることに気づいた。
のろのろと手をつき上半身を起こした後で、初めて手首の戒めが無くなっていることを知った。
手首だけではない。足もだ。
もっとも、鉛でも仕込まれたように重く感じられたが……。
そうこうしているうちに、漣が伝播していくようにむず痒さが広がっていく。
その事実にアキラは怯えた。
朦朧とする視界を凝らし、現状を把握しようと努める。
どうやら、少しは薬の効果が薄れているのだろう。



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