遠雷 3


(3)
「これはいったいどういうことです!?」
男は答えない。ただ、アキラの全身に舐めるような視線を向けている。
その視線に促されたのだろう、アキラは恐るべき事実に気づいた。
自分が全裸であることに!
「これはいったい!?」
理不尽な仕打ちに、怒りが燃え上がる。
「何を考えているんですっ!!」
男は口の端を引き上げて、微笑して見せる。その空々しい笑みに、アキラは叫んだ。
「笑うな!」
そのときだった。男の背後にあるドアが開く。
「うるさいのは、好まないんだ」と、耳に心地の良いバリトンが告げる。
アキラは、暫しの間、言葉を失った。
薄く微笑み、自分を見下ろす整った容貌。
それは見知った顔だった。
「芹澤さん……」
彼は目を細め、優しげに笑んだ口元に、人差し指を押し当ててから声を聞かせた。
「しー―――、静かにしようね。これがなんだかわかるかな?」
そういってアキラの目の前に差し出したのは、穴のあいたピンポン球のようなものだった。
「これは、ボールギャグといってね。君から言葉を奪う拘束具だ」
芹澤は手馴れていた。
「芹澤さん、何をなそ!? …うぅっ!」
抗う間もなく、アキラは咥えた状態で、ギャグを装着されてしまう。
「この状況で、何をされるのかわからないなんて、私を失望させないでくれたまえ、塔矢くん」
「ぅ〜〜っ………」
「楽しい夜になりそうだ」
そう嘯くと、芹沢の手はアキラの乱れてしまった黒髪をゆっくりと撫で付けるのだった。



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