storm 3 - 4
(3)
一、二分もかからない距離だったのに、それでもずぶ濡れになった。
玄関に彼を待たせておいて先に部屋に上がり、着ているものを脱ぎながらタオルを取りに行った。
一枚で自分の身体を拭きながら、もう一枚を彼に手渡し、言った。
「服、脱いだ方がいいぜ。そのままだと風邪を引く。」
それから奥の部屋へ入って、部屋の隅に転がっていたジーパンをとりあえずはき、それから彼に
着替えを、と思って箪笥の中からジャージを出した。
「おい、塔矢、着替え…」
そう言いながら玄関の方へ戻って、思わずぎょっとして言葉を飲み込んだ。
玄関の小さな灯りの下で、濡れて張り付く白いワイシャツを苦労しながら脱いでいる。時折、腕の
傷の痛みに顔をしかめる。濡れて水が滴り落ちる黒い髪と、白く浮き上がる上半身と、腕から流れ
る赤い血がやけに鮮明に見えた。
吸い寄せられるようになるその光景から懸命に視線を振り切ろうとして頭を振ると、彼がこちらに
気付いて顔を上げた。
「こっち来い。」
つかつかと歩み寄って上半身裸になった彼の、怪我をしていないほうの腕を掴むと、彼は痛みに顔
をしかめた。そのまま洗面所に連れて行き、傷口を洗う。彼は痛みをこらえながらも、こちらには逆
らわず、腕を差し出していた。
血と汚れをざっと洗い流し、タオルで拭くと、傷口から新たな血が滲み出した。だが、傷自体はさほど
深くはないようだ。傷口を押さえるようにタオルを巻きつけ、
「これに着替えたら来い。手当てしてやるから。」
そう言ってジャージを渡した。
(4)
「腕、出しな。」
そう言うと彼は素直に腕を差し出した。
白い腕に斜めに走る傷口とそこから滲み出る血の赤さが妙に扇情的で、その傷口に舌を這わせ、
赤い血を舐めとりたい衝動に駆られた。が、そうはせず消毒液を吹きかけた脱脂綿で傷口を拭うと、
それがしみたらしく、彼は痛みに顔をしかめた。
ガーゼを傷口の大きさに切り、患部に当てて、テープで止めた。
「包帯巻かなくても、これでちゃんと止まるよな。」
独り言のように言うと、
「本当に、色々と済みません。」
と彼はまた謝った。
「気にすんなよ、これくらい。あと、そっちも、」
と言って、右手を取った。
手の甲に軽く擦り傷ができていた。
「…気が付かなかった。」
「こっちはたいしたことねぇな。碁石を持つのにも支障はねぇだろ。」
そう言って傷口をペロリと舐めてやった。目を上げると、彼は目を丸くして驚いている。その顔ににやっ
と笑いかけてやると、かっと彼の頬が赤くなった。
「これっくらいなら、舐めときゃ直るよ。」
そう言いながら救急箱から絆創膏を取り出し、甲の傷に貼ってやった。
そして、「もう、上、着てもいいぞ」と言いながらジャージの上を渡そうとしたときに、唐突に彼が言った。
「ボクのこと、ご存知なんですか?」
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