遠雷 31 - 35
(31)
芹澤の目の前にある白い肌は、しっとりと汗を帯びていた。
ギッとソファが軋んだ。
アキラの右膝がソファに乗ったのだ。自然芹澤の肩に重みが加わり、彼の視界は白一色となる。
純白と言うより、滑らかな象牙を思わせる匂うような肌。
その薄紅に色づく二つの突起は、男をそそる艶めいた花の蕾だ。
芹澤は喉の奥で笑いながら、アキラを支えるように両脇に手を添える。そのとき親指は下から捏ね上げるように、二つの乳首を捕らえていた。
「ふぁッ……」
アキラが喉を反らして喘ぐ。汗を含んだ黒髪が重そうに揺れた。
「感じるんだね」
芹澤は聞くまでもないことを口にし、乳首に耐えず刺激を与えた。
アキラの髪が左右に揺れ、パサリと前に落ちた。
「ふふ、悪戯はこれぐらいにしよう」
芹澤はそう言うと、親指で嬲ることをやめた。
アキラは、右膝をソファに乗り上げ、芹澤の肩に両手を置いたまま、ふぅふぅと息を整えている。
断続的に腰を震わせるのは、むず痒さを耐えてのことだろう。
「どうしたのかな? これでおしまいかい?」
アキラは首を振った。
ギッ――――
またソファが軋んだ。
アキラは膝立ちの姿勢で、芹澤の太ももを跨いでいる。
「いやらしいね。君のペニスから、ぽたぽた垂れている」
芹澤の指が、アキラの先端で球を結んでいた雫を掬い取る。
「拭っても拭っても、溢れてくる。慎みというものを知らないのかな」
芹澤の言葉嬲りに、アキラの羞恥が募る。
(32)
逃げ出せるものなら逃げ出したい。
そんな意識が一瞬浮かぶ。だが、それが無理だということも、アキラは身をもって知っていた。
いまもし、ここに一人でいるのなら、アキラはとうに自分の後孔に指を捻じ込み、掻き回していたことだろう。
それでも届かないことは知っている。
棒切れでもなんでもいい、指より長いものがあるならば、躊躇いなく挿入しこの痒みをどうにかするだろう。
人間としての恥じらいが戻りつつあるいま、これは間違いなく拷問だった。
「塔矢君、ここでやめても私は一向に構わないのだよ」
芹澤は苦しそうに息をつくアキラの表情を堪能しながら、脇を支えていた右手をしたにおろし、ぴしゃりと小さな尻を叩いた。
「ああ!」
痛みに挙げる声ではない。
アキラは膝を交互に動かし、目的の場所に近づいていく。
芹澤もそれに迎合し、腰をずらした。頃合のところでアキラの体を後ろに倒すようにして、膝に座らせる。
「膝立ちでは無理だよ。ちゃんと私の体を跨ぎなさい。
そうそれで立ち上がるんだ。中腰の姿勢で。そう、そうだ。いいぞ」
言葉をかけることで、いま自分がどんな姿勢を取っているか、考える隙を与えない。
「君は初めてだからね。少しだけ手伝ってあげよう」
そう言いながら、芹澤はアキラの細い腰を左右から掴む。
「そうだ。そのまま腰を下ろしてごらん」
言われたまま、ゆっくりと沈めていく。
弾力のある熱い感触が、過ぎた刺激で腫れ上がってしまった入り口に触れた。
火傷しそうな熱に、瞬間、アキラの腰が逃げる。
が、芹澤の手がそれを許すはずがない。
「やめるのかな?」
アキラは歯を食い縛ると、もう一度腰を下ろした。
再び感じる熱に、全身に戦慄が走った。しかし、ここでやめるわけにはいかなかった。
さらに腰を落とす。が、芹澤の陰茎はぬるりと逃げてしまった。
「あぁ――!」
癇癪を起こした子供のように、アキラが鋭く叫ぶ。
(33)
「そんな声を出されてもね。一応人間の体の一部なんだから、それなりにいたわって欲しいね」
アキラはぶるぶると全身を震わせながら、芹沢の昂ぶりを掴んだ。
しっかりと固定し、みたび腰を下ろす。
ぬぷっという音を体の中で聞く。
肉がこじ開けられる感覚に、ぞくりと嫌悪が肌を這う。
「はぁ、ぁ、ぁ、ぁ…………」
自ら体を開く恐怖に、アキラの喉は振り絞るような悲鳴をあげた。
一番太い亀頭がずるりと飲みこまれる。
一度、そこで動きを止め、限界まで開かれる感覚をやり過ごす。
「よくできました。塔矢君」
芹澤の言葉は、いまのアキラの耳に、言葉として届かなかった。
「また少し手伝ってあげようね」
言葉が終わるやいなや、芹澤は下からきつく突き上げた。
「ヤっ―――――!!」
否も応もない。
ズンと体の奥に響く衝撃に、辛うじて体重を支えていた下肢が頽れる。
自重でいままでにない深みにまで、芹沢の陰茎は達していた。
アキラの全身を電流が走り抜ける。
そのとき脳裏に閃いたのは、鋭いピンで刺し止められる、蝶の標本だった。
(34)
「う、う…う………」
芹澤の長尺を最奥まで受け入れて、アキラはしばらくの間身じろぎひとつできなかった。
苦しい呻きだけが、食い縛った歯の間から漏れてくる。
生々しかった。
自分の内部で、どくどくと脈を打つ芹澤の熱に、アキラは身震いした。
水から受け入れたという事実が、アキラを苛む。
だが、これが終わりではなかった。
挿入の刺激で遠のいていた感覚が戻ってくる。
芹澤の淫茎を飲みこみ、一杯に広げられた腸壁に、あの忌まわしいむず痒さがじわりじわりとよみがえってくる。
「う……、あっ…くぅ………」
アキラは芹澤の肩に手を置いたまま、狂ったように頭を振った。
どうすれば、この虫の這うような感覚から逃れられるのか、わかっていた。
だが、それをすることに抵抗があった。
どうして自分から進んで、……そんなことを………。
だが、痒みは徐々に募っていく。芹澤の肉塊が発する熱が、煽っているかのようだ。
アキラの頭がかくんと後ろに落ちた。
意識を失ったのかと、芹澤はあくまで冷静に、今宵の獲物を検分する。
腰と背中をそれぞれ支えていた手で、左右から頬に触れ、顔を起こす。
半眼の瞳に力はなかった。焦点が合っていない。
気をやったのかと、下に目をやったが、萎えかけてはいたが逐情の痕跡はなかった。
舌先で、ぺろりとアキラの唇を舐めてやる。
ぴくりと首の筋が動いた。意識はあるのだ。
盛んに頭を振りたてた為、脳貧血に近い状態なのだろうと、芹澤は見当をつけた。
(35)
「塔矢君」
紗のかかった瞳が、わずかに反応した。
「わかっているのだろう? 往生際が悪い」
芹澤はそう言うと、ほんの少しだけ腰を揺らめかせた。
「あ、あっあっ、あぁぁぁ―――――――」
アキラが切ない声を漏らした。
芹澤は、背を撓らせるアキラの顔を、息がかかる距離で堪能した。
汗に張りつく黒髪、白い肌は仄かに色づいている。
軽く寄せた眉、濡れた唇は赤かった。そして、瞳は――――。
長い睫に縁取られた瞳には、狂おしい熱があった。
耐えがたい飢餓に狂い出した熱があった。それを物語るように、赤く染まった目元……。
「揺れ惑う君は、恐ろしいほど卑猥だな」
貶める言葉を甘く優しく囁くと、芹澤は、頬にあった手を下へ移動させた。
片腕でアキラの体を支えてやる。
その腕を限界まで延ばしてやれば、自然アキラの体は後ろに反る。
空いていたほうの腕で華奢な体が逃げないように、腰の辺り手を拘束する。
その姿勢で、芹澤はつき入れた淫茎を斜め上に突き上げるように動かした。
芹澤の腕の中でアキラが身悶える。
「はあっ……」
アキラの口から、吐息が零れた。それは、いままでになく甘いものだった。
芹澤は、安堵にも似た表情を浮かべ、目を閉じたアキラに、そっと微笑みかける。
そしてまた腰を小刻みに動かしてやる。
快感を求めてのことではない。
アキラの欲しがる刺激だ。掻痒感を抑えるための刺激だ。
アキラの口の端が微かに歪んだ。まるで笑んでいるかのような表情。
芹澤は、逸物を半ば以上引きぬくと、円を書くように腰を動かした。
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