遠雷 38 - 40
(38)
彼には彼なりの美学がある。
その美学が、塔矢アキラは稀有な存在なのだと、判定を下した。
いろいろな選択肢があったはずだ。
習慣性のある薬で虜にする方法もあった。
写真やビデオにこの姿を残し、それで縛りつける方法もあった。
時間をかけて、肉体に快楽を覚えこませ、離れられなくする方法もあった。
暴力で躾る方法もあった。
ただの性奴に堕とすのなら、それで良かったはずだ。
実際、男に命じた時点では、そのうちのどれかを選ぶつもりでいたのだ。
だが、いまの芹澤に、その意思はなかった。
彼が凡百な男なら、嬉々として選択していただろう。しかし、彼にはわかっていた。
彼の勝負師としての勘が、教えてくれたのだ。
塔矢アキラは、危険だと―――――。
(私が虜になっては、本末転倒だろう)
芹澤はそう独り語ちると、アキラの細腰を掴み、下から勢いよく突き上げた。
「あっ、あぁぁぁぁ…………………」
甘い悲鳴を響かせて、アキラの若木のような全身が大きく撓った。
その壮絶なほど美しくも淫靡な姿に、芹澤は目を奪われながら、さらに激しく突き上げる。
もう、理性はいらない。耐える事もない。
快楽の頂点だけを目指し、本能のまま少年の体を貪り蹂躙する。
いままでにないほど、自身の淫茎が膨れ上がったことを、芹澤は自覚していた。
熱く濡れそぼった媚肉が収斂し、芹澤の怒張を全体的に甘く締め付ける。
その最後の刺激に、くっと奥歯を噛み締めると、芹澤はようやく堪えに堪えた淫汁を、アキラの内部に吐き出したのだった。
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「ふぁっ、…いっ……いぃ…………」
芹澤の長いストロークが、確実にアキラの官能のポイントを抉る。
そのたびに、アキラは艶を帯びた声で、正直な告白を繰り返す。
一度、繋がりは解かれたはずなのに、気がつけば反転した態勢で、いまだに芹澤の膝の上で自分の体は揺れていた。
あれほどアキラを苦しめた掻痒感は、まったく感じられなかった。
それが芹澤の精液のおかげだということを、アキラは知らない。
痒みがなくなったというのに、いまもこうして犯されているのは、快感に溺れてのことだった。
催淫剤の効果は幾分残っていたかもしれないが、それよりも生まれて初めて味わう快楽の、果てのない昂揚感に蝕まれている。
芹澤の大きな手が、アキラの腰を掴み、その白い肢体を上下に動かす。
上に抱え上げ、下に落とす。落とされた体を迎えるように腰を突き上げる。
ズンという重い衝撃が、腹の奥から脳天まで突き抜ける。
「ひぃっ…………ん……」
小さな悲鳴と甘い呻きが交互に上がる。
それを十分に楽しむと、芹澤はアキラの腰から手を離した。
くたりと、アキラの体が支えを失い後ろに倒れる。芹澤の厚い胸に背中を預け、アキラは乱れた息に胸を喘がせた。
芹澤は、目の前にあるアキラの肩に舌を滑らせた。
ぴくっぴくっと、アキラの肩が揺れる。肩から首筋へと舌を這わせながら、芹澤の左手はアキラの右の乳首を捉え、快感だけを与えるために、やわやわと動く。
その心地良さに、アキラは「くふっ」と甘く鳴いた。
突き上げる動きは、こね回す動きに変わっている。
アキラの全身は、霧を吹いたようにしっとりと汗で濡れ、皮膚の薄いところは薔薇色に染まっていた。
「塔矢君」
アキラの耳元で囁く芹澤のバリトンも、過ぎた快感に掠れている。
「感じているかい?」
アキラは頷いた。すると、芹澤はアキラの乳首を指先できつく摘み上げた。
「つっ」
「感じているのか?」
聡いアキラは、芹澤の意図するところを正しく理解し、「はい」と震える声で答えた。
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「どこが感じているのかな?」
「……どこ?」
アキラはすぐには答えられなかった。
あらゆる刺激が一つの快楽を紡いでいるのだ。答えられるはずがない。
それを理解したのか、芹澤が質問を変える。
「どこが熱い?」
「お腹の中が……」
「なぜ?」
「熱いので、一杯…なって……るから……」
怪しい口調ではあったが、正直な答えだった。
「いい答えだ」
芹澤はそう言うと、小刻みに腰を動かし、新たな疼きを掘り起こす。
「あん、あっ……ん……」
いまのアキラには、声を抑えようという意識すら働かなかった。
指の先にも心臓があるのではないかと思えるほど、全身が脈を打つ。それすら、甘い刺激だった。
―――――自分ではない自分に作り変えられていく。
そんな不安が、心の片隅にあった。
だが、それはなんとも甘美な不安だった。
その不安があるから、いま自分を支配する快楽が絶対的なものに思えてくる。
芹澤が閉じていた足を開いた。自然アキラの足も大きく開かれ、結合がさらに深くなる。
乳首が下から上へ擦り挙げられ、芹澤の長い指がぽろぽろと涙を零すペニスを爪先で弾いたとき、アキラに体の芯まで溶かすような絶頂が、また訪れた。
「あっ、あっ、あ―――――――――――……」
アキラは、掠れた声で叫んでいた。
脊髄を走り抜ける電流にも似た快感。それを全身で味わっていた。
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