遠雷 4


(4)
「思ったとおり、…いや、思った以上に綺麗な肌をしている」
芹沢は、指先でアキラの頬の感触を確かめながら、くつくつと喉の奥で笑った。
そのとたん、アキラの肌に粟が立った。
空調の効いた部屋の中、全裸でいても寒さは感じなかった。
それなのに、背筋を這い上がるようなこの悪寒は、芹沢の笑い声がもたらしたものだったろうか、
それとも頬から頤へ辿っていく指先が生みだすものだったろうか。
どちらにせよ、いま己の身に迫る危機に、ゆっくりと分析している余裕がアキラにあるはずがなかった。
アキラは、芹沢の指を振り払おうと激しく頭を振った。
自分がどのような形で拘束されているか、把握はしていなかったが、
それでも手足をあらん限りの力で動かす。
ガチャガチャと耳障りな金属音が頭の上で聞こえる。
「無駄だよ」
芹沢は、笑った。
それはこんな状況でさえなかったら、柔和な笑みといってもよかったろう。
「その手錠は、人間の力でどうにかできる代物じゃない。
この鍵で開けるか、ガスバーナーで焼ききるか……、
でも安心しなさい。内側にミンクの毛皮を張ってあるから、君の手首に傷がつくようなことはない。
好きなだけ抵抗していいんだよ、そのほうが私たちも楽しめる」
アキラはそこで初めて恐怖を覚えた。
いま目の前で涼しげな微笑を浮かべている男は、自分とは住む世界が違う。
本能がそれを察知した。
「さあ、はじめようか」
抑揚のない声で短く告げると、芹沢の長い指はアキラの頤を離れ、下へ下へと滑っていく。
その指が鴇色の突起を摘んだとき、アキラの上半身がびくりと揺れた。



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