遠雷 5


(5)
「感度はいいようだ」
芹沢は満足げにつぶやくと、摘んだ指に力をこめた。
「!」
敏感な乳首に加えられた激しい痛みに、アキラの全身が悲鳴を上げた。
拘束されたベッドの上で、しなやかな肢体が跳ねる様は、若鮎を思わせる。
「ふふふ、痛かったかい? それはすまなかった。おい」
芹沢があごをしゃくると、今日アキラを指名した壮年の男が、すっと立ち上がった。
「力の加減がわからなくてね、痛い思いをさせてしまった。おまえ、慰めてやりなさい」
男の口元がにたりと笑んだ。
欲望に彩られた喜色を滲ませるその笑みは、アキラの瞳に醜悪に映った。
――――ヤメロ!
叫びたくても、噛まされたギャグのせいで声にならない。
アキラにできることは、先程と同じく頭を打ち振り、手足を動かすぐらいしかない。
それは抵抗と呼ぶには、あまりにささやかだった。
一部上場の大企業の役員だという男は、アキラの右脇で腰をかがめた。
――――ヤメロッ! ボクニサワルナ!!
閉じることを許されない唇から毀れるのは、拒絶の言葉ではなかった。
唾液だ。唾液が頬から耳のほうへと伝っていく。その濡れた感触がひどく惨めだとアキラは思った。



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