storm 5 - 6


(5)
「さっき、名前を呼びませんでしたか?それに碁石を持つのにって…」
そう言えば呼んだかもしれない。
っていうか、やっぱりコイツはオレの事を全然覚えていなかったんだな。
そう思うと、わかってはいても少しだけ胸が痛むのを感じた。
「やっぱり覚えてねぇんだな、おまえ。」
そう言うと彼は訝しげに首を傾げた。
「ガキん頃、おまえと同じ囲碁教室、通ってたんだぜ。オレはもう碁は止めちまったけどな。」
そう言っても、彼は思い出せないようだった。
わかってたさ。おまえがとっくにオレを忘れてるだろうって事は。
手を伸ばして頬に触れた。彼はびくっと身を竦ませた。
「血が出てるよ。ここも怪我したんだな。」
そう言って小さく笑った。だが彼は警戒するような表情を隠さずにオレを見た。
突然見せた警戒心に逆に煽られたのかもしれない。
そのまま顔を近づけ、唇を軽く重ねた。
一瞬の間の後に、彼の顔がぱっと逃げ、こちらを睨みつける。
「何の、つもりですか。」
「治療代さ。それくらいもらってもいいんじゃねぇか…?」
「…ふざけるなっ!」
頬に触れたままの手を振り払おうとした彼の手を逆に捕らえ、頭を引き寄せて、今度は深く唇を
合わせようとした。しかし、唇に鋭い痛みを感じて顔を放す。その痛みに舌をやると、血の味が
した。先程の塔矢の手の傷と同じ味が。
傷を手で拭って、自分にその傷を与えた相手を見る。
睨みつける彼の目に背筋がざわめくのを感じる。
その時、パシッと音がして、明かりが消えた。


(6)
「停電…?」
どくん、と心臓が嫌な感じで脈打った。
風が木々を揺らす音が、地面に、屋根に、窓ガラスに、激しく雨が叩きつけられる音がする。
エアコンが止まり、オーディオの電光も消え、薄暗がりの中で時計の文字盤だけが妙に光って見える。
息が詰まる。ぴくりとも身体を動かすことが出来ない。
突然フラッシュがたかれたように閃光が窓から室内を照らし、耳を劈く轟音がバリバリと空気を引き
裂き、地面すら揺らしたように感じた。
思わず瞑ってしまった目を開けると、室内は相変わらず薄暗く、その中で、彼の白い上半身だけがぼうっ
と浮き上がって見える。
手を伸ばそうとしたのと、彼が逃げようとしたのと、どちらが先だったのかわからない。だが手はその
まま逃げる獲物を追い、肩を捕らえて、乱暴に身体を組み伏せた。
白い閃光が室内を真昼に戻す。その瞬間、自分を刺すように鋭く光っていた漆黒の瞳が目に焼きついた。
肩を床に押さえ付けると、痛苦に彼がうめき声を漏らす。
それでもその身体は押さえつける力から逃れようと激しく暴れる。
蹴り上げようとする足を避けて、身体をうつぶせに倒し、下着ごとジャージを剥ぎ取り、暴れる身体を
脅しつけるように身体の中心を握りこむと、声にならない悲鳴が上がる。
そして握りこむ力を弱め、慰撫するように擦り上げると、押さえつけていた肩が弱く震えるのを感じる。
背に顔を寄せ、濡れた髪の張り付くうなじにくちづけすると、彼の身体がまた、ぴくんと反応する。
「塔矢、」
耳元で囁いた声が、彼の耳に届いていたのかはわからない。
暴れるな。大人しくしてくれれば、痛いようにはしないから。
そんな手前勝手な思いを込めて、彼の名を呼ぶ。
運が悪かったんだ。おまえのせいじゃない。恨むんなら天気を恨め。嵐のせいだ。
だから嵐に歯向かっても敵うはずがないんだから、嵐が過ぎるまで大人しくしてくれ。



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