遠雷 5 - 7
(5)
「感度はいいようだ」
芹沢は満足げにつぶやくと、摘んだ指に力をこめた。
「!」
敏感な乳首に加えられた激しい痛みに、アキラの全身が悲鳴を上げた。
拘束されたベッドの上で、しなやかな肢体が跳ねる様は、若鮎を思わせる。
「ふふふ、痛かったかい? それはすまなかった。おい」
芹沢があごをしゃくると、今日アキラを指名した壮年の男が、すっと立ち上がった。
「力の加減がわからなくてね、痛い思いをさせてしまった。おまえ、慰めてやりなさい」
男の口元がにたりと笑んだ。
欲望に彩られた喜色を滲ませるその笑みは、アキラの瞳に醜悪に映った。
――――ヤメロ!
叫びたくても、噛まされたギャグのせいで声にならない。
アキラにできることは、先程と同じく頭を打ち振り、手足を動かすぐらいしかない。
それは抵抗と呼ぶには、あまりにささやかだった。
一部上場の大企業の役員だという男は、アキラの右脇で腰をかがめた。
――――ヤメロッ! ボクニサワルナ!!
閉じることを許されない唇から毀れるのは、拒絶の言葉ではなかった。
唾液だ。唾液が頬から耳のほうへと伝っていく。その濡れた感触がひどく惨めだとアキラは思った。
(6)
アキラの胸の上で、ちゅっという音が聞こえた。
壮年の男が、アキラの乳首に吸い付いたのだ。
「う、ゥ〜〜〜っ!」
ちゅぷちゅぷと濡れた音をわざと響かせて、男は赤ん坊のようにアキラの乳首を吸う。
「!」
芹沢の指先で、潰すような勢いで摘まれたそこは、ジンジンと痛み熱を孕んでいた。
その熱を煽るように、男の生暖かい舌が今度は下から上へと舐めあげる。
アキラの意思を無視する形で、その腰がぴくっぴくっと跳ねあがる。
「いいだろう?」
芹沢が楽しそうに囁く。
「塔矢アキラくん、君は幸せだよ。彼は、この私が仕込んだからね、
素晴らしい舌技の持ち主なんだよ。なにしろ犬だからね、私がいいと言うまで
それこそ何時間でも舐めつづけるんだ。そうだな?」
芹沢が、男の髪を掴み顔を起こし尋ねると、男は嬉しそうに吐息を漏らし、
「はい、左様でございます」と答えた。
アキラの全身に再び悪寒が走る。
自分の父親と同じ年代の男が、頬を染めうっとりと吐きだす言葉は信じられないものだった。
芹沢はふっと笑うと、男の髪から手を離した。
男はまたアキラの乳首に舌を這わせる。
アキラがそちらに意識を向けている隙を見て、芹沢の手が動く。
――――あっ!
アキラが気づいたときには、芹沢の指は空いているほうの乳首を捉えていた。
痛苦――――――――
右の乳首に与えられた痛みは、ひねり潰されるものだった。
いま左の乳首に与えられた痛みは、ちぎれるような痛み。
芹沢は爪を食い込ませ、摘み上げる。
――――あっあぁぁぁ!!
(7)
叫びたいのに、叫べないことがこんなにも苦しいものだとは、アキラは今まで知らなかった。
「ふふ、いいねぇ、対局時の水のように静かな君の顔を私はとても美しいと思っていたのだが、
こうして苦悶にうめく君の表情も、それはそれは扇情的だ。そう思わないか?」
「はい、芹沢様のおっしゃるとおりです」
男が答えると、熱い吐息がアキラのしっとりとした肌の上を走っていく。
アキラは身を捩った。
男の呼気は通り過ぎたはずなのに、無視できない熱がわだかまっている。
これは何だろうと、アキラは一瞬考えた。
が、考えがまとまる前に、また熱い舌がアキラの痛みに疼く乳首を舐めあげる。
芹沢が自慢するだけのことはあった。
器用に動く舌は、アキラの乳首を交互に攻め立てる。
その狭間で、アキラは知った。
いま自分が感じている熱は、外から与えられたものではないことを。
それは、アキラの身の内で生まれる熱だった。
「おやおや、まだ乳首しかいじっていないのに、どうしたのかな?
ここをこんなにするなんて?」
芹沢の指が、アキラの股間に伸びる。
指の腹で触れるペニスは、徐々に形を変え始めていた。
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