遠雷 6 - 10


(6)
アキラの胸の上で、ちゅっという音が聞こえた。
壮年の男が、アキラの乳首に吸い付いたのだ。
「う、ゥ〜〜〜っ!」
ちゅぷちゅぷと濡れた音をわざと響かせて、男は赤ん坊のようにアキラの乳首を吸う。
「!」
芹沢の指先で、潰すような勢いで摘まれたそこは、ジンジンと痛み熱を孕んでいた。
その熱を煽るように、男の生暖かい舌が今度は下から上へと舐めあげる。
アキラの意思を無視する形で、その腰がぴくっぴくっと跳ねあがる。
「いいだろう?」
芹沢が楽しそうに囁く。
「塔矢アキラくん、君は幸せだよ。彼は、この私が仕込んだからね、
素晴らしい舌技の持ち主なんだよ。なにしろ犬だからね、私がいいと言うまで
それこそ何時間でも舐めつづけるんだ。そうだな?」
芹沢が、男の髪を掴み顔を起こし尋ねると、男は嬉しそうに吐息を漏らし、
「はい、左様でございます」と答えた。
アキラの全身に再び悪寒が走る。
自分の父親と同じ年代の男が、頬を染めうっとりと吐きだす言葉は信じられないものだった。
芹沢はふっと笑うと、男の髪から手を離した。
男はまたアキラの乳首に舌を這わせる。
アキラがそちらに意識を向けている隙を見て、芹沢の手が動く。
――――あっ!
アキラが気づいたときには、芹沢の指は空いているほうの乳首を捉えていた。

痛苦――――――――

右の乳首に与えられた痛みは、ひねり潰されるものだった。
いま左の乳首に与えられた痛みは、ちぎれるような痛み。
芹沢は爪を食い込ませ、摘み上げる。
――――あっあぁぁぁ!!


(7)
叫びたいのに、叫べないことがこんなにも苦しいものだとは、アキラは今まで知らなかった。
「ふふ、いいねぇ、対局時の水のように静かな君の顔を私はとても美しいと思っていたのだが、
こうして苦悶にうめく君の表情も、それはそれは扇情的だ。そう思わないか?」
「はい、芹沢様のおっしゃるとおりです」
男が答えると、熱い吐息がアキラのしっとりとした肌の上を走っていく。
アキラは身を捩った。
男の呼気は通り過ぎたはずなのに、無視できない熱がわだかまっている。
これは何だろうと、アキラは一瞬考えた。
が、考えがまとまる前に、また熱い舌がアキラの痛みに疼く乳首を舐めあげる。
芹沢が自慢するだけのことはあった。
器用に動く舌は、アキラの乳首を交互に攻め立てる。
その狭間で、アキラは知った。
いま自分が感じている熱は、外から与えられたものではないことを。
それは、アキラの身の内で生まれる熱だった。
「おやおや、まだ乳首しかいじっていないのに、どうしたのかな?
ここをこんなにするなんて?」
芹沢の指が、アキラの股間に伸びる。
指の腹で触れるペニスは、徐々に形を変え始めていた。


(8)
「困ったな」
芹沢が眉をひそめて呟いた。
「今日は、乳首で感じるように調教するつもりだったんだが……、
こんなに感度がいいなんて、嬉しい誤算だったな。おい」
芹沢の鋭い声に、夢中になってアキラの乳首をしゃぶっていた男が慌てて顔を上げる。
「支度をしろ」
「え?」
「なにを呆けているんだ。塔矢先生のご期待にお答えしなくては、お招きした甲斐がないんじゃないか?」
「あ、はい」
男は濡れた口元を手の甲で拭いながら、壁に造り付けの棚へと向かう。
「そうだな……、今日はとにかく塔矢先生に楽しんでいただこう」
いまにも舌なめずりしかねない口元を引き締め、芹沢は笑った。
「いかがです。気持ち、いいでしょう?」
アキラに話し掛けながら、芹沢の手が動きを変える。
指先で嬲っていたものを、手のひらで握りこむとゆっくりと上下に扱く。
「私の手で感じていただけるなんて、望外の喜びとでも……。
ああ、色は……まだ綺麗な、ピンクですね。でも形はいい。ちゃんと剥けているし」
芹沢は、腰をかがめると、アキラの耳元で囁く。
彼の低い声が告げる寸評に、アキラの体が羞恥に染まる。
「ああ、君の反応の一つ一つがどれほどそそるか、君にはわからないなんてね」
芹沢の声が、アキラの脳髄を侵食していく。
忌むべき行為の中にあって、なぜこの感覚を無視できないのかと、アキラは激しく己を責めた。
「そんなに辛そうな顔をしない。見ている私まで辛くなってしまうでしょう」
勝手な事を口にする間も、芹沢の手は緩急取り混ぜて、アキラを追い上げていく。
―――あぁ、あ・……あ……ぁ……
いまこの場面で、言葉を奪われていることはアキラにとって幸運であったかもしれない。
「芹沢様、お持ちいたしました」
男の声が聞こえたが、もう既にアキラにとってそれは意味を為さない音でしかなかった。
芹沢は、男が差し出すものに目をやると、唇の端を引き上げて笑った。
それは酷薄な表情であった。


(9)
「たいしたものだな。涙一つこぼさないとは」
ぐったりとしたアキラを見下ろしながら、芹澤は額に張り付いた髪を後ろに撫で付けてやる。
「だが、その高すぎる矜持はこの場では尊敬されるどころか、かえって踏みにじってやりたくなる類のものなんだよ。塔矢くん」
静かに語る芹澤の声に、どこか楽しげな響きが混じっている。
「この駄犬は、はじめての洗浄のとき、涙と鼻水で顔中を濡らして懇願したよ。助けてくださいとね。
笑えるだろう? 塔矢くん。そんな犬畜生が、昼間は偉そうにふんぞり返り人間様を顎でこき使っているんだ。
それを思うとあまりに滑稽でね、笑いを堪えるのが苦しくなる」
「芹澤さま、これでよろしいでしょうか?」
芹澤が話している間に、準備は整ったようだ。
バスルームに移動する際、一度は外された手錠がまたベッドヘッドの柵に通されている。
アキラは、両腕を上に上げたまま一括りにされ拘束されている。
「ああ、上手に出来たな」
芹澤は、犬と呼ぶ男に向かって微笑みかける。
会社では専務取締りという肩書きを持つ男が、子供のように瞳を輝かせ喜色を浮かべる。
「アキラ君、素敵だよ。君が普段隠している全てが見える」
リング状になったなめし革のロープが、アキラの首と両足にかけられている。
たった一本のロープが、アキラにM字開脚を強いている。
「ふふ」と笑いながら芹澤は、延ばすことの出来ないアキラの両膝に手を置いた。
その手が大きく左右に動いた。
「股関節は柔らかいようだな」
ひどく事務的な声。
「ここも頑ななようだな。二度の浣腸ではほぐれないか」


(10)
芹澤は二度といったが、それはグリセリン溶液を使用した回数だ。
シャワーを使ったぬるま湯での洗浄は、数えていない。
内部を洗う湯が透明になるまで行われたそれは、紛れもなく拷問だった。
だが、気丈なアキラはその間、あらん限りの力で抵抗はしたが、涙だけは零さなかった。
卑怯な手で自分を陥れた者に、涙だけは見せたくなかった。
しかし、意に添わぬ行為は、容赦なく体力を奪っていく。
バスルームからベッドに移動する時点で、アキラは既に自力で歩くことも覚束なくなっていた。
芹澤と男に左右から抱えられずるずると引きずられるようにして、ベッドへと運ばれた。
乱暴に放り投げられたとき、自分は今この場で、ただの「物」でしかないのだと突き付けられた。
今時分らで切ることは。この醜い現実から、目を逸らすことだけ。
アキラは、硬く目をつぶる。
だが、薄いまぶたの先で震える睫が、陵辱者たちの目にどれほど可憐に映るか、彼は知らない。
可憐であることは、芹澤の嗜虐心に火をつける。
凛とした佇まいを持つ、この若く才能あふれる棋士を、汚してしまいたいと芹澤は思っていた。
しかし、可憐な姿を見てしまった今は、それだけでは満足できない。
自分に隷属させたいと願っていた。
自分のためだけに、綻ばせる花。
その想像に、胸が騒ぐ。



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