storm 9 - 10
(9)
反抗していた力を抜いて、愛撫に応えるような息を漏らし始めた彼が、抵抗を諦めたと思ったのは
大きな間違いだった。
押さえ込んでいた体が突然大きく跳ねた。腕を何かが掠め、それが喉もとに突きつけられた。
「手を、放せ。」
低い声で彼が言った。
「ボクから、離れろ。」
稲光が室内を照らし、突きつけられたものがギラリと光った。
身を守るようにハサミを突きつけたまま、こちらを睨んでいる。睨み付けたまま身を起こし、少しずつ、
後ろに下がって行く。断続的に光る雷が、ストップモーションのように両者の動きを断片化する。
射るように睨み付けていた彼が、自分の顔を見て、一瞬息を飲んだような気がした。
「思い出した。」
低い声でぼつりと言った。その声色に背筋がぞくりとした。
「どこかで見たような気がしてたんだ。
そうだ。進藤と一緒にいるのを、見た事がある。確か葉瀬中の囲碁部の…」
言いかけて、彼の顔色が変わったように見えた。
「か…が?もしかして、キミが加賀か?」
「…そうだよ。」
ハサミを持つ手に力がこもったように見えた。
彼の全身を暗い怒りが支配するのを感じた。
「殺してやればよかった。脅しなんかじゃなく。手加減なんかしないで。」
黒い瞳が燃え上がる。黒い炎が塔矢の全身を包むのが見えるような気がした。
「ずっと、殺してやりたいと思ってたのに、まさか逆にこんな目に合うとはね!」
(10)
殺意を向けられる理由は知っている。
そうか。おまえは知ってるのか。あの事を。
オレがおまえの恋人を抱いた事を。
あいつが言ったのか。おまえに話したのか。
あの時オレは、これでオレはもう二度とおまえに会えなくなる、そう思った。
こんな形で会うことになるとは、まさかオレも思わなかったぜ。
……ヘンだな。なんでオレはこんなに妙に冷静なんだ。
コイツを、オレの前で殺意を隠そうともしない塔矢を目の前にして。
「どういうつもりだ。彼を…そして、なぜボクを……」
怒りに震える声で問いかける。ギリギリと殺意のこもった目でオレを睨みつけている。
だがこんな視線に負けるほどオレはヤワじゃねぇ。
同じように睨み据えて、言ってやった。
「泣き付いて来たのはあいつの方だ。泣かせたおまえが悪いんだろう。
他人の恋人をわざわざ慰めてやったのに、責められる筋合いはねぇぜ。
……っていうか、そんな大昔の話を今更持ち出すな。」
「…だったら、だったらどうしてボクを…っ!」
「無防備に男の部屋に上がるんじゃねぇ。肌を晒すんじゃねぇ。
おまえが進藤だけのものだって言うんなら、進藤以外になんかおまえを見せるな。
男の目におまえの身体がどんなに美味そうな餌に見えるのか、ちっとは自覚しろ。」
「美味しそうな餌をぶら下げられりゃ、飛びつかないほうがおかしいって言うのか。
理性も何もあったもんじゃないね!」
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