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そうだ・・・・・教卓の前に立つ川口の姿を見ながら一平は思い出した。
今日は彼が日直・・・・・今朝、試験前に川口から、皆が提出したノートを日直が取りに来るようにと言われていたのだ。
一平は手を挙げると、
「先生、職員室にノートを取りに行ってきます!」
川口に言うと、彼女は両手を腰にあてた・・・・・その仕草が細いウエストを強調させる。
「もっと早く、取りに来て欲しかったな・・・・・」
川口が、おどけた口調で言うと、生徒たちの笑い声が教室に溢れた。
一平は思わず苦笑した。
「お願いね」
川口に言われ、一平は「ハイ!」と元気に返事をすると、教室を出て職員室に入った。
ドアを開けて挨拶をすると、川口の机に向かった。
机の上には積み上げられたノートの山があった。
「オッ?! 望月か・・・・・?」
そう言いながら、向かい側の机からヌッとごつい顔を上げたのは、体育教師の植田友彦だ。
植田と川口は、同時期にこの中学校に赴任をした。
最初の朝礼で川口亜由美の挨拶に沸き立っていた生徒たちは、次に挨拶に立った植田のいかにも体育会系と言った風貌との落差に呆然としてしまった。
その後、『月とすっぽん』、『美女と野獣』などと言われたのも、仕方がないだろう。
その『野獣』が、机に並んだ本の向こう側から、一平を見ている。このごつい顔の男が彼らの憧れの的、川口亜由美と同年齢だというのが、一平には信じられなかった。
「望月・・・・・なにじろじろ見ているんだよ?」
「いえ・・・・・」
なんでもありません・・・・・一平は、川口亜由美の机に置かれたノートの山に手を伸ばした。
「望月、体育倉庫にあるサッカーボールに、空気が入っているか見てきてくれないか?」
エッ?!・・・・・一平の気持ちが顔に出たのだろう、植田は、
「頼むよ・・・・・俺も手が離せなくてさ・・・・・」
「でも、僕は日直でノートを教室に持っていかないといけないんです」
一平が川口の机に置かれたノートの山を指差した。
「川口先生には、俺が謝っておくよ・・・・・君には迷惑をかけない・・・・・」
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