恋するアゲハマ嬢 10
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「緒方先生!オレ焼肉食いたいよ。先生のオゴリ?」
夜でも昼間とさほど変わらぬテンションで、ヒカルが緒方にねだる。
「進藤…ラーメンじゃない日もあるんだね…」
意外な発見をしたとでも言うように、アキラがしみじみと呟く。
なぜならアキラは、ラーメンとハンバーガー以外の物を食べる
ヒカルを一度も見たことが無いからだ。
「ひっでーな。いくらオレでも毎日ラーメンばっか食ってるわけじゃないやい!
あ、でもあれは食ってみたい。フカヒレラーメン!」
「参考までに聞くが、そのラーメンの値段はいくらだ?」
「6000円」
払えない事もない金額だが、ラーメン一杯にそこまでかける気にはなれない。
緒方はやれやれと肩をすくめ、アキラに救いを求めた。
「進藤の食い道楽に付き合えるほどオレは酔狂じゃないんでね。
そんなに味見がしたければ、アキラ君にでも奢ってもらうんだな」
「やだね」
ヒカルが即答する。
「オレが塔矢に奢るんならまだしも、塔矢に奢ってもらうなんて、
そんなカイショーのない事できるかよ!」
「進藤…甲斐性って言葉、知ってたんだね…」
「…稼ぎの悪い亭主って意味だろ?」
「やだ、あなたたち面白すぎ」
悪気のないアキラと、他意のないヒカルのとぼけたやりとりに堪えきれず、
市河は思い切り吹き出した。
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