恋するアゲハマ嬢 12


(12)
その店は雑居ビルの地下1階に身を潜めるように存在していた。
階段を下りると、まずは御影石で出来た看板が一同を出迎えた。
壁に設置してある小さな照明が、店名と、つるつるとした滑らかな表面を
ぼんやりと浮かび上がらせ、ここが酒場の喧騒とは無縁である事を
それとなく教えてくれる。
緒方は扉を開け、難なく入口をすり抜けた。続いて市河、その後を
アキラとヒカルが追う。
「いらっしゃ…一体どうしたんだい?君にしちゃあ、早すぎる来店じゃないか」
店主とおぼしき人物が、緒方を見るなりカウンターの中で動きを止めた。
その目はまるで珍獣にでも遭遇したかのように、めいっぱい見開かれている。
深夜族である緒方の信じがたい来店時間だけでなく、
連れがいることにも驚いているようだった。
緒方は好奇の目を気にした風もなく、カウンターに一番近いテーブルへ三人を座らせると、
自身はカウンターに腰掛け、棒立ちの店主にオーダーした。
「マスター、今日は見ての通り育ち盛りが二人いるんで、美味くて腹にたまる物を頼む。
 オレはいつもので。市河さんはどうする?」
緒方の手がクイッとグラスを傾ける仕草をした。
アルコールの事を言っているのだと市河は理解する。
「…お酒は遠慮します。緒方先生は気にせず飲んで下さい、私が車で送りますから」
「それじゃ彼女にも美味しいものを」
緒方の注文に快く頷く店主。ぱっと見、緒方よりも十ばかり年上に見える。
「緒方君の連れなら特別メニューでおもてなししなくちゃな」
そう言うと、店主は他の従業員にカウンターを任せ、厨房へと消えていった。



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