恋するアゲハマ嬢 14
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そんなわけで、飲み物が届くまでのちょっとした間、
誰も何も話をしないという沈黙の時間が流れた。
いわゆる“幽霊が通った”と言われる現象だ。
市河はここぞとばかりに目の前に座っている二人の少年をまじまじと観察した。
一体何が恥ずかしいのか、まだこちらを見ようとはしないアキラの横顔は
一週間隣で凝視し続けても飽きのこない美しさで市河を魅了する。
身の内の清廉さを代弁しているかのような白いうなじも、
少年と大人の狭間で揺れる年頃の象徴のような髪型もたまらなくいとおしい。
この国の法律がもう少し甘かったなら、このまま蝋で固めて
自分の家に連れ帰り、居間に飾って置きたいほどだ。
対するヒカルは、これまた絵に描いたような少年らしい少年、
『ちょー少年』とでも名付けるべきだろうか。
自分で脱色しているのかそれとも生まれる前に魔法でもかけられたのか、
前髪の色だけが金に近い茶色をしている。そんな奇抜な外見を除けば、
ヒカルはどこにでもいる中学生──のはずだった。
ところが市河は、久しぶりに見たヒカルの容姿に新鮮な感動を覚えた。
ヒカルの事は小学生の頃から知っている。
初対面は碁会所に来てアキラを二度も負かした時。
その後プロになって間もない頃に一度、
塔矢行洋の入院先に押し掛けてきたところに偶然居合わせた。
当時からどこにでもいる普通のやんちゃ坊主だったヒカルが、
今はそれなりに成長の証を見せ付けている。
頬のふっくらとした子供肉がいつの間にか取れているだけでなく、
アキラにも負けず劣らずの細っこい体の上には華奢な首と
いい感じに日焼けした顔。意外と大きな目はそんじょそこらの女の子より
俄然愛らしく、全体的に人好きのする顔をしている。
──男の子ってこんなに急に成長するものなの?
まだ充分若いはずの市河は、自分も歳を取るはずだと深い溜息をついた。
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