恋するアゲハマ嬢 17


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「市河さん、さっきから手が止まってるから、どうしたのかと思って」
「ご、ごめんなさい。ずっと見られてて食べ辛かったわよね」
「そうじゃないんです。もしかしてあまりお腹空いてないのに無理に
 付き合わせてしまったのかなと心配になって…」
「そんな事あるはずがないじゃない!」
誤解を打ち消す為、市河は勢い余って握り拳でテーブルを強く叩いてしまった。
反動でブラックティーのグラスが傾き、市河の服を濡らした。
「キャッ!」
「大丈夫ですか?」
「市河さん、酔っ払いみたいだな」
アキラとヒカル、両方から差し出されたおしぼりを受け取り、
市河はズボンの表面に浮いた滴を軽く叩いた。素早く吸い取られた液体が
おしぼりを茶色く染める。その色はやがてじわじわと全体へ勢力を広めていった。
「大変だ!おしぼりが足りないようなら、トイレの洗面台の上に置いてあるやつを
 使っていいよ。シミにならないうちに早く!」
店主の声に市河はそうさせてもらいます、と頭を下げ、女性用トイレへと席を立った。
言われたとおりおしぼりで残りの水滴をふき取り、最後にトイレの鏡で全身を
チェックする。幸い処置が早かったため、見苦しいようなシミは免れた。
…元々シミになっても構わないような服ではあるのだが。
──ダメ。はしゃぎすぎちゃって失敗したわ。こんなことじゃ未来の塔矢家の
  厨房は任せてもらえない…。しっかりしろ、晴美!!
パンパンと両手で頬を叩く。
市河は気合を入れ直すと、愛するアキラの元へいざゆかん!と元気よく出陣した。



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