恋するアゲハマ嬢 25


(25)
下唇を噛みながらアキラは後ろを振り返り、頼みもしない手榴弾を投げてきた
忌々しい相手をキッと睨みつけた。
だがヒカルも負けてはいない。
「なんだよ、ホントの事じゃん!この間もオレが寝た後、緒方先生と二人で
 延々飲んでたクセにさぁ」
突然だが、市河はマル秘手帳を持っている。
自分用ではなく、主にアキラのスケジュールを書き込むためのものだ。
情報源は塔矢明子。
市河は毎週欠かさず塔矢家に電話を入れ、アキラの都合に合わせて
指導碁を組み込むとの名目でアキラの予定を聞き出していた。
スケジュール以外にも、アキラに関する事柄なら
どんな些細なものでも即刻記入するようにした。
マル秘手帳──それは食べ物の好き嫌いから、アキラが笑ったオヤジ連中のダジャレまで、
ありとあらゆるジャンルを網羅したアキラファン垂涎のデータブック。
当然、身長も体重も視力も脈拍数もバッチリ押さえてある。
そんなアキラ通・市河にも、まだまだ知らない衝撃の事実があったとは。
「アキラ君、ホントにホントにお酒を飲んでるの?」
腕組みのまま目を丸くして尋ねてくる市河。アキラはもう一度ヒカルを睨み、
すぐさま困リ果てた表情を浮かべ市河に向き直った。
「……父と母には内緒にしてもらえますか?ボクと市河さんの秘密ということで…」
─秘密。なんという甘美な響きだろう。
市河は目を伏せた。
碁会所連中も惑わされるほどの艶然さと無邪気さで、アキラは市河をも翻弄する。
何気ない一言、些細な仕草に一喜一憂するのは毎度の事。
そんなアキラ狂いは親衛隊メンバーも似たようなものだろう。
柔らかい物腰と、育ちの良さから来る優雅な立居振舞、
加えて先輩棋士を凌駕する囲碁の実力。母親似の美貌。父親譲りの利発さ。
数え上げればキリがないそれらの賞賛に溺れることなく、
むしろ必要以上に謙虚であろうとするアキラを、周囲の大人達は
「偉い偉い」とさらに誉め称える。するとアキラは分不相応の賛辞にますます萎縮してしまう。
その態度が「若いのに出来たお人だ」と評価され、イマドキの若者に辟易している
大人達の間でよりいっそうアキラ熱が高まっていく。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル