恋するアゲハマ嬢 3


(3)
「アキラ、挨拶しなさい」
父親に促され、その少年は愛くるしい笑顔を浮べながら市河にチョコンと頭を下げた。
「おねえさんこんにちは。ボク、塔矢アキラです」
「──ハッ、初めまして!市河晴美です!」
なんなのだ、この可愛らしい生き物は。
市河はうう、と胸を押さえた。心臓の音が早鐘のようにばくばくばくばくと鳴り響く。
肩の上で切り揃えた漆黒の髪にはキラキラとキューティクルが輪を描き、
磁器のような白い肌には美しい稜線を描く眉と汚れを知らない澄んだ瞳、
そしてすっきりと通った鼻とチェリーのように艶やかで小さな唇が
寸分の狂いもなく配置されていて、誰かに地上に降りた天使だと紹介されても
疑わないほどの美しい少年だった。
この少年は神に愛されている。市河はそう確信した。
ニコニコと微笑むアキラを、市河は穴が開くほど観察した。
あんな怖そうな父親から、どうやってこんなプリティーボーイが製造されるのだろう。
いや、母親が女神のように美しければそれも不可能ではない。
下世話な想像に浸っていると、アキラが市河に声をかけてきた。
「おねえさん、ボクと…」
小さな指が碁盤を示していた。
「あ、ああ。いいわよ。じゃあ石取りゲームしよっか」
アキラはにっこり笑って碁笥を掴んだ。
「ううん、たがいせんがいいな」



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