恋するアゲハマ嬢 4


(4)
対局が終わった後、市河は号泣した。
結果は市河の中押し負け。いかんせん力の差がありすぎた。
父の手ほどきで、市河もそれなりに碁は打てる。
故に、子供相手なら勝てるという自信があった。
だが結果は──。
子供だと思って油断したとか、そんなレベルではない。
圧倒的大差の中押し負けなのだ。間違いなくこの少年は、市河の父親より棋力が上だ。
ぽろぽろと涙を流す市河を前にし、動揺したアキラはか細い声で市河に謝った。
「ごめんなさい、おねえさん…ボク…ごめんなさい」
「違う、違うの」
市河は溢れる涙もそのままに、懸命に首を横に振った。
泣いたのは、負けたのが悔しかったからではない。
嬉しかったからだ。
この少年は美しいだけではなく、囲碁もめっぽう強い。
天は二物を与えたのだ。もしかしたら三物、四物だったりするのかもしれない。
今ここで碁会所に別れを告げたら、この先滅多に拝めることなどできないであろう女神の造形物。
この奇跡のような出会いを無駄にしてなるものか。
市河は決心した。
「お父さん!私、ここでバイトする!」
行洋と話し込んでいる父親に向かって、娘は邪心たっぷりにそう宣言した。



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