恋するアゲハマ嬢 6


(6)
「最近のアキラ先生は、なんていうのか…匂い立つような色気があるね。
 対局中ついつい見とれてしまうんだよ。あ、市河さんも十分色っぽいよ」
扇子で額の汗を扇ぎながら、広瀬は慌てて年頃の市河に気を遣った。
「ヤダ、何言ってるのよ広瀬さんってば」
お世辞をありがたく頂戴しつつ、市河は広瀬に同意していた。
近頃のアキラは美しい。前から美しかったが、なお、よりいっそう美しい。
「あのくらいの歳の子は、何にもしなくても綺麗なんだってさ。
 世阿弥も本にそんな事を書いてたよ」
「ゼアミ?」
広瀬の言葉に市河は眉を寄せる。
「ハッハッハ、若い人は能なんて興味ないよね。昔々の能役者なんだけど、
 十代の頃は努力しなくても華がある、大切なのは歳を取ってからもその華を
 持続することで、それには努力と鍛錬を惜しむべからず、みたいな事を
 書いてあるんだ。アキラ先生は今まさに花盛りって感じだね」
そう言うと、広瀬は「誰かに恋でもしてるんじゃないのかな?」と冗談めかして
市河に耳打ちした。
──恋。
市河はその二文字を反芻する。アキラが恋?誰に?
恋をしているならしているで嗅覚の鋭い市河も気付いてよさそうなものだが、
アキラに女の影など全くといって感じられなかったのだ。
自信満々にそう断言できる基礎データは、女の絶対的な勘しかない。
──アキラ君の側にいる女って、もしかして私しかいないんじゃない?
市河は体内アキラゲージの針がMAXになるのを感じた。
──もしかしてアキラ君、私のことを……。



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