恋するアゲハマ嬢 7


(7)
アキラの事は世界で一番好きだったが、もしや好かれているのではと
意識しだしてから市河の世界はさらに極楽浄土と化した。
なんといっても、天使に好かれる人間はそうはいない。
市河は当初の狙い通り、孤高の美神に見初められたのだ。
インプリンティングだと笑わば笑え、もし仮にそうだとしても、
最終的に決断するのはアキラ本人だ。誰にも文句など言わせるものか。
市河は幸せを先取りしすぎて壊れかかった。
元々訪れるどんな客にも愛想良く、そつのない応対ができるのが
市河の取り柄でもあり、碁会所の看板娘たる所以だったのだが、
最近は何故か備品の破壊、レジの計算間違いが激しく、
その後始末の面倒さにさすがの市河も自己嫌悪に陥った。
男にうつつを抜かして失敗する女は数多存在するが、
まさか自分までその仲間入りをするとは思いも寄らなかった。
いつも通り碁会所を閉めた後、レジ締めを一人でこなす市河に、
アキラは心配そうに声を掛けてくれた。
「市河さん、ボクも手伝おうか?」
「ううん、いいのよ。その気持ちだけで充分」
夜、二人きりの時間を色気のない碁会所で過ごすのも、
市河にとっては貴重なランデブータイムなのだ。
このままアイツさえ現れなければ。
「待たせたな、アキラ君」
「緒方さん。いつもすみません」
──来た。呼んでもいないのに来た。
市河は心の中でチッと舌打ちし、慇懃無礼に挨拶した。
「緒方先生、いつもご苦労様です。でも先生、とおってもお忙しいようですから
 これからは私がアキラ君を送って行きましょうか」
「生憎今夜は予定が入ってなくてね。久しぶりにアキラ君とメシでも
 食おうかと思い、誘っただけなんだが…」
どこか言い訳がましい緒方の言葉に、朗らかなアキラの声が重なる。
「市河さんも一緒に行こうよ!」
アキラの誘いに市河は泣きそうになった。天使は、誰にでも平等に優しい。



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