恋するアゲハマ嬢 8


(8)
「アキラ君、市河さんは今とおっても忙しいんだ。邪魔しちゃ悪いだろう」
市河と同じように“とっても”に妙なアクセントをつけながら、
緒方はアキラをやんわりと諭した。
実は緒方にしてみれば、これから起こりうる悲劇を回避するべく
口に出した言葉だったのだが、何も知らない市河にその真意が汲み取れるはずもなく、
かえって闘争本能に火を点ける結果となってしまった。
「忙しくなんかありません!せっかくアキラ君が誘ってくれてるんだし、
 私も一緒に行っちゃおうかなー」
そう言うと市河は、ロクに数えてもいない現金を麻袋に無造作に押し込み、
保管用の金庫へと投げ入れた。
もしも売上の計算が合わなかったときは、自腹を切ればいいだけの話だ。
そんな事よりも今は、アキラと緒方を二人きりにしてはいけないと
乙女の勘が訴えている。何か胸騒ぎがするのだ。
「じゃあボクは、戸締りを確認してきます」
アキラは愛くるしい顔立ちに麗しさをトッピングした極上のスマイルで、
碁会所内の施錠確認を始めた。それを見て市河はクーッと幸せを噛み締める。
想い人の何気ない笑顔も、一日の労働を終えた市河にとっては最高のご褒美なのだ。
それに今日のアキラは機嫌が良い。珍しくはしゃいでいるようにも見える。
──アキラ君ったら、私とご飯食べるのがそんなに嬉しいのかしら。
フフ、と不気味に笑う市河の横で、緒方は我関せずといった風情で
ラークをふかしていた。



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