恋するアゲハマ嬢 9
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エレベーターで一階に降りた直後、緒方が辺りを見回した。
「──アイツ、何処に行きやがった」
「アイツって誰ですか?」
市河は不思議に思う。自分達以外にもまだ他に同伴者がいるのだろうか?
「いや…今日、たまたま仕事先が一緒だったんだ…」
緒方の的外れな返答が、市河をさらに悩ませる。
その時、何者かがこちらに向かって走り寄ってきた。
「とーやッ!」
その人一倍大きな声の主は、近づくなりいきなりアキラを羽交い絞めにした。
「進藤!」
アキラは怒る様子もなく──というかむしろ嬉しそうに笑い、
突然回されたヒカルの腕にもはや自分の手を重ねている。
あれ?と市河は首を傾げた。
目の前で繰り広げられたのは微笑ましい少年同士の交流なのに、
見ているとなにかこう、胸の奥がもやもやっとしてしまう。
「…ま、こういうわけなんだ」
「は?」
さっきから緒方は自分に何が言いたいのだろう。
何が一体どういうわけなのか市河にはさっぱり理解できないのだが、
これからアキラと一緒に過ごす時間を少しでも多く確保する事の方が
大事なので、今は深く追求しないでおく。
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