いちぢく 21 - 25


(21)
「きひっイ…いあっ…」
目を見開き、驚愕した表情でアキラは全身を突っ張らせた。
今まででさえ限界に近い程に粘壁を引き伸ばされたその箇所に一層強い鈍い痛みが奔り、
巨大な異物の侵入を拒んで締まろうとした筋肉の動きと
体内に溜め込まれたエネルギーを射出しようとする波動の作用がぶつかり合い
絡み合って耐えようもない快感の衝撃がアキラを襲った。
「くあ…っ」
ドクンッと全身が大きく脈打つ感じがして、時が止まったように体が強張り
一瞬のタイムラグを置いて、アキラは絶叫した。
「う゛あああーーーーっ!!」
アキラの秘部が内と外から同時に弾けた。
ブリッジ状にアキラの腹部が反り上がり下肢が痙攣する。
男は冷静にその両膝を小脇に抑え込んで制した。
狂ったように悲鳴を上げて両腕でシーツを掴み、ガクンガクンと上半身を振るアキラの
様子を無視するかのように手の動きを続ける。
数回に分けて大量の白い体液を吹き上げるアキラの肉芽を握ったまま上下に擦り、
異物を抽出する。
制服の上着は事前に男によってアキラの胸元までたくしあげられていたが、いくつか飛沫を受けて
染みを作っていた。
「くう…んっ…あっ…うっ…」
汗と涙でアキラの目尻から頬に掛けて濡れて黒髪が張り付き、喘ぐ口元から唾液が滴り流れ出る。
長く続いた痙攣の後、やがて全身が弛緩してだらりと両手がシーツの上に落ちた。


(22)
だが衝撃が収まる事を許さぬように継続して男から刺激が与えられる。
男の手の動きにビクンビクンと電気的に四肢が震える。
「…死んじゃう…よオ…」
半分意識を失い掛けてアキラは呻いた。
心臓が破裂しそうに激しく響いていた。今度また同じような事が起こったら、気が狂って
本当に死んでしまいそうだった。
「初めてにしては申し分ない。…いや、想像以上だ。」
男は嬉しそうにアキラの肉芽を握り擦りながら異物の角度を変えてアキラの反応を探る。
その動きの中でアキラの下肢がビクリと強く震えた。
「大丈夫、もう少しがんばってみよう、これでラストだよ。」
アキラの足を抱え直して体勢を整えると、その箇所を集中的に攻めるように男は
手の動きを強めた。部屋の中にアキラの悲鳴が響いた。

真っ白に弾けた視界がゆっくりと落ちて来て、何も聞こえなくなっていた音が戻って来た。
どこともなしに宙を彷徨わせていた視界が、ふいに自分を覗き込む若い女性の顔を捉え、
アキラはハッとなった。
「大丈夫?ぼく、どこか具合悪いの?」
女性の背後まで神経が行き届くと、そこがどこかの駅の改札近くの雑踏の中だとわかった。
その一角の壁際にアキラはぼんやりと立っていたのだった。
アキラはとっさに自分の下腹部を押さえた。ちゃんと下着もズボンも身に付けて
ランドセルも背負っていた。


(23)
「もしかして、やっぱりお腹痛いのかな?駅員さん呼んであげようか?」
アキラは俯いて首を振った。見ると自分の手には切符が握らされていた。
それを不思議そうに見つめていると、若い女性は首を傾げながら立ち去っていった。

アキラは必死で記憶を辿った。
男と一緒にこの駅で降りて、男の家に行った。
最初にオレンジジュースを出されて、それを飲んだ。それからの事がよくわからない。
気がつくと自分はベッドの上に座らされて、男に髪を櫛で梳かれていた。
「君はしっかりした子だから、1人でお家まで帰れるよね。」
そう言われて、黙って頷いた。そうしないと帰れなくなるような気がした。
そしてすっかり日が落ちた人気のない道を男の後ろについて歩き、駅まで来たのだ。
おそらく切符を買って手に持たせたのも男だろう。
部屋を出る前に錠剤を飲まされた。
「少し頭がボーッとするかもしれない。帰ったらすぐ横になって休むといい。」
一歩一歩歩く度にひどく股関節が軋むように痛みが走った。
「またいつでもおいで。」
そう言って男は来た道を引き返していった。
「家に帰らなきゃ…」
アキラはそう呟き、改札口に向かった。


(24)
「何ボーッとしてんだよ、塔矢。」
地下鉄の車内でデッキに立ち、窓に映る暗闇を眺めているとふいに話し掛けられた。
棋院会館から碁会所に向かうのに進藤ヒカルと一緒に乗り込んだのだった。
「あ…いや、何でもない。…進藤、」
「ん?」
いつもヒカルは明るい色彩の服を好んで着るが、とりわけ今日は蛍光色のオレンジ色の
パーカーを着ていて、無機質な色合いの車内の中で一際目を引いた。
両手をポケットに突っ込んで手すりに肩を扉にもたれかけさせている。
「小学生の頃って、恐い空想とかしたことってない?親が遠いところにいってしまうとか、
…人さらいにさらわれるとか。」
「はあ?」
唐突な質問にヒカルは一瞬きょとんとした表情を見せ、またいつものやつかという諦めた顔になる。
こちらが友人との会話というものに慣れていなくて、脈絡なく素頓狂な話をしてしまうことを
ヒカルは何度も経験してよく知っていた。
「あー、う、うん、そうだなあ。でっかい鳥にさらわれて空を飛んだり出来たらいいなーとか
考えたかな。塔矢はそういうの考えたのか?」
「ん…、時々ね。いや、別にいいんだ。」
そうして窓の外の闇に視線を戻すと、進藤が「やれやれ」といったように首を振って溜め息を
つくのがガラスに映るのが見えた。
変な事を聞いてしまって申し訳ないと思いながら窓の外を見つめると、自分のすぐ背後に
あの男が立つ姿が一瞬見えた。
息を飲んで振り返っても、もちろんそこには誰も居ない。


(25)
あの日、男の家に行ってその後何があったのか、未だに思い出せない。
断片的に時折記憶とも想像ともつかない話が頭の中に浮かび上がり、体の奥が熱く激しく
疼き出す。それで慌てて打ち消す。変な事を考える自分がおかしいのだと思った。
しばらく経ってあの駅で降りて男の住居があった場所に行ってみたが、閉鎖された工場の
ごく一部を残して跡形もなく消えていた。焼けた鉄骨の一部だけが数本残っていた。
「漏電か何かで火が出て、工場に残っていた燃料のドラム缶に引火したらしいよ。」
通りがかった地元の人が教えてくれた。
「…ここに住んでいた人は?」
「こんなとこ人が住んでいたっけ。ただ物凄く激しい火事だったからねえ。」
それ以来その場所の事を思い返すのを止めた。
ただひとつ気になるのは、家に帰った後でランドセルを開けると、中身に硬い物が入った
給食袋があった事だった。男に全て返したはずなのに、と思ってアキラは中の物を見た。
「…何だろう、これ…」
ピンク色の奇妙な形をしたその物体をまじまじと見つめて息を飲む。
すると下腹部の奥が甘く切なく痺れてどうしようもなくなって来て、無意識の内に後ろの谷間の
隙間に手が伸びて行く。軽く触れるとドクドクと脈打ち、うっすらと汗ばんでいる。
そのまま何かに支配されてしまいそうになり、思わず頭を振って打ち消し、
袋の中に異物を戻すと押し入れの片隅に押し込み戸を閉めた。
その後それは見ていない。

「…ただの妄想…だよ。」
窓の外に話しかけるようにアキラは小声で呟いた。         (終)



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