盤上の月 11


(11)
「緒方さん、どうぞ。」と、すかさず芦原が自分のライターに火をつけ緒方に差し出した。
「おっ、すまんな。」と口にタバコを加え、芦原のライターから火を受けながら
「・・・芦原、おまえ鼻にクリームついてるぞ。」と一言ボソッと呟いた。
「あっ、ホントだ。」
アキラは慌てて鼻のクリームを拭う芦原を見て、声を上げて笑った。

新年会が盛り上がっている最中、アキラは部屋から抜け出して料亭の庭に出ていた。
「ちょっと飲みすぎたかな・・・。」と言いながら軽く息を吐いた。
吐いた息はアキラの周りを一瞬白く取り囲んで すぐ消えていった。
1月の東京の夜は まだ寒さが一段と厳しい。
だが酔って火照っているアキラの体には氷のように肌に刺す夜の冷気が心地良く感じた。
都心は明るくて夜空の星を見ることは難しいが、寒月が辺り一面を煌煌と青白く照らし、
庭園には白・赤・淡紅色の山茶花が咲き乱れていた。
庭園を眺めながらアキラは先ほどの緒方との会話を思い出した。
──本因坊リーグは緒方さんと対局する第5戦まで必ず勝ち進んでみせる。
本戦で緒方さんに勝って自分の力を示したい。
それに本因坊戦だけでなく、他に棋聖戦・名人戦など次々と手合いがあるから一時も
気が抜けない──。
これからの対局の事について いろいろと考えを巡らしている時、
ヒカルの顔が一瞬頭を掠めた。
日常の何気ない時、とっさにヒカルの顔を思い出す事が近頃ますます多くなり、
そのたびアキラの胸に 行き場のない切なさが込み上げてくる。
──ボクは進藤を生涯のライバルとしたいのだろうか、それとも違う存在としたいのだろうか──。
アキラは自分がヒカルに対して何を望んでいるのか分からなくなった。
分かる事といえば、ヒカルと共に生涯をかけて神の一手を追及したいという気持ちと、
ヒカルを好きだと想いはアキラの中では どちらも紛れもない真実だった。
今頃 進藤は何をしているのだろうかと月を眺めながらアキラは思った。



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