盤上の月 12
(12)
その頃ヒカルは、自分の部屋で定石集を見ながら一人碁盤に向かっていた。
「なんか今日は一段と冷えるなあ。」と言いながら、パチパチと碁石を碁盤に並べる。
「ふっー、ちょっと休憩するか。」
ヒカルは台所へ行ってコーヒーをいれて、コーヒーカップを手に自分の部屋に戻った。
ベッドに腰をかけコーヒーを飲みながら何気にカーテンを開けると、夜空には
青白く光る月がヒカルの目に飛び込んできた。
「へー、今日は月が綺麗だなあ。」
そう言いながら月をしばらく眺めていると、何故かヒカルの脳裏にアキラの姿が現れた。
雪が降る大晦日の夜遅く、アキラが家に訪ねて来て自分に軽くキスをした事が鮮やかに
ヒカルの心に蘇ってきた。
アキラが帰った後、ヒカルは一旦ベッドに横になったが、キスの事やアキラの何処か
寂しげな瞳が目に焼け付いて気になり眠れず、結局 朝まで1人で碁を打っていた。
──あれって やっぱオレの思い過ごしだよなあ。
だって碁会所に行ってもアイツ、以前と変わらなく平然としていたし。
でもなあ、ホントごくたまにだけど すごく優しい目で塔矢がオレを見ている時が
あるんだよなあ・・・。オレの考えすぎかなのかなあ。
まさかなあ、第一オレ男だし、塔矢は女にモテるから そんな事ないよなあ──。
ヒカルは右手で頭をポリポリ掻いてカーテンを閉めてコーヒーを飲んでいると、
徐々に胸を締め付けるような切ない感情が自分の心に広がっていくのを感じた。
そんな自分にヒカルは ひどく驚き、その感情が何処から来るものか理解できなく混乱した。
──ええい、他の事は考えるな! 碁に集中しなきゃダメだっ!!──
頭を左右に強く振り両手で頬をパンパンと叩き、顔を引き締めて再び碁盤の前に座った。
しかし幾度となくアキラの透明感のある寂しげな瞳が頭に浮かんでは消え、
その度に碁石を持つ手が何度も宙に止まった。
ヒカルは碁石を碁笥に戻しては深い溜息をつき、碁に集中できない自分に呆然とした。
そして胸中を漂う切なさは いつまでも消える事はなかった。
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