盤上の月 13
(13)
新学期が始まってからの初めての日曜日、アキラとヒカルは碁会所で待ち合わせて
いつも通り碁の研究をしていた。
2人とも すでにプロ棋士なので多くの手合いが入りスケージュールがかなり詰まっている。
なので、お互い手合い無しが一致する日を碁会所での研究に当てている。
今日は先週行われた名人リーグ戦の他のプロ棋士の一局を碁盤に碁石を並べて検討していた。
「この第3局の白の38、40の打ち込みは凄いよな。ちょっと考えつかない手だぜコレ。
だけど、この白の38に対して黒39カケツギも悪くないよな。」
「そうだね。あと黒51のハネに白は深入り過ぎたね。今回は打たれなかったけど
左下から打ち込まれると黒に上から受けられる恐れがあるから、ここに打ったほうが
良かったと思う。」
アキラは碁笥から白石を一つ手に挟み、碁面にパチッと打った。
「ああ、そうか!」と、ヒカルは両腕を組み難しい表情をして唸ったが、ハッと何か別の事を
思い出してアキラに言った。
「塔矢 おまえに聞きたい事あるんだけど。」
「何だ 進藤?」
「泊まりの仕事で、おまえは もう講座を受け持った事とかあるのか?」
「まだ話は来ないけど、近くにそうなる事はあるかもね。」
プロ棋士は手合い以外に碁の一般普及にも努め囲碁人口増加に貢献する義務があり、年に数回
行われる囲碁ゼミナールなどで講座を担当し、囲碁愛好家に囲碁の指導・説明をする事がある。
プロ棋士に一番求められるのは対局で勝利するのは当然だが、それ以外に囲碁ファンに対して
分かりやすい具体的な指導、話術など様々な能力を同時に求められるので、ただ棋力が強いだけでは駄目なのである。
「碁を広げなきゃいけないのは分かるけどさ、そういうのより時間使うより打ってるほうが
いいなあ。」
ヒカルは机に右肘をついて手の甲に顎をのせ溜息まじりで言った。
その様子を見てアキラはクスッと笑い「まったく同感だね。」と言い、碁盤の碁石を片付け始めた。
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