盤上の月 16


(16)
アキラの目は一段と険しさを増し、こめかみが先ほどより早く引きつりヒカルに呆れ果てて
大きな溜息をついた。
その横でヒカルは さすがに自分の態度がアキラに対して悪かったと反省し、
慌てて机の本を手に取り読む素振りをした。
「人の話を聞くのが苦手なら、ノートに書いて写しながらの方が頭に入るしキミも 
そのほうが集中出来るだろう。」
「あっ、そっか! さすが塔矢頭イイなっ!」と無邪気にヒカルは笑った。
──・・・キミが頭悪すぎるんだ・・・──と、塔矢は口には出さなかったが心の中で思った。
「じゃあ、ここをまとめてみて。終わったらボクがチェックするから。」と、
多少 口の端をヒクヒクさせながらアキラは言った。
「OK わかったっ!」と、二カッと歯を見せながらヒカルは陽気に返事をした。
・・・何でボクは こんなヤツを好きになったんだろうかとアキラは自分に対して腹が立ち
胸がムカムカしながらもヒカルがノートをとる姿を しばらく眺めた。
また熱が出てきたのか頭がボーとし、目が少し霞んできた。
──・・・ふうん、進藤って結構指が長いんだな。がっしりしていてボクより太い指だ。
あの指で碁を打つのか。そしてホント大きな目だなあ。唇・・・柔らかそうだな──
アキラはハッと我に返り顔を赤らめ、今 自分が思ったことを恥ずかしく感じた。
しかし、そうは思っても目はヒカルの唇からクギ付けになって動かない。
──ボクは一度あの唇にキスをした事がある──
そう思った途端、キスをした時のヒカルの唇の柔らかさが鮮やかにアキラの記憶に甦り、
体が熱くなり胸の鼓動が一気に高まった。
そして切なさがアキラを心を貫いて手のひらには じんわり汗をかき、今にもヒカルに触れたくて
仕方がない衝動に強く駆られた。
ヒカルは今 アキラのすぐ手の届く距離にいる。
──進藤に触れたい、抱きしめてキスをしたい──アキラの紛れもない本心だった。



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