盤上の月 18
(18)
結局、二人は図書館を追い出された。
アキラとヒカルは歩道で横に並んで歩き、また碁会所に戻るため地下鉄駅に向かっていた。
「・・・ったく、おまえが悪いんだぞ! いちいち つまらない事言うから。」
「何言ってるんだ! キミこそ居眠りばかりしていたくせにっ!!」
アキラは図書館を追い出された自分が今だに信じられないでいて愕然としている。
ヒカルは小学生の時かなりの腕白で、よく先生に怒られて廊下にも立たされる事が多かったので
別にどうってことはなく、ただマズかったなあぐらいの気持ちしかない。
・・・進藤と一緒にいると、ボクは どんどん下品になるのは気のせいだろうかと
アキラは つい思ってしまう。
そして また熱が上がっていくようで体がフラフラし足元がおぼつかなくなった。
──このまま家に帰った方がいいと思うけど、そうしたら今度 進藤に会えるのは
1週間後だ・・・そう考えると「帰る」という言葉を喉まで出かかっても
どうしても言い出せない。出来るだけ進藤と一緒にいる時間が欲しい──
今までは碁が中心と回っていたアキラだったが、最近ではヒカルの事が軸になりかけている。
その時、アキラはフッと目の前が暗くなって体がガクンと重くなり、その場で しゃがみこんだ。
「・・・塔矢? どうしたんだよっ!?」ヒカルは驚いてアキラの側に急いで駆け寄った。
「具合が悪いのか塔矢?」と、ヒカルが声を掛けても返事が出来なくて動けない様子だった。
しゃがんでアキラの両肩をつかんだ時、ヒカルの親指が ふとアキラの首筋に触れた。
瞬間 ヒカルはドキッとした。
首筋に触れた親指から熱を帯びているのが伝わり、かなりの高熱を出しているのが分かった。
──これは碁会所には戻らないで、タクシーを拾って塔矢の家に連れて帰った方がいいな──
ヒカルは とっさにそう判断し、「塔矢、ちょっと待ってろ。タクシー呼んでくるっ!」と、
すぐ近くにあった公衆電話ボックスに飛び込んだ。
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