盤上の月 19


(19)
ヒカルはボックスにあるタウンページを開いてタクシー会社を調べて そこに電話を
かけながら視線を歩道にうずくまっているアキラに向けた。
その姿を改めて見てヒカルの心は激しく揺れ、それはヒカルが自分でも
気付いていない ある感情にもたどり着き、さらに それに強く揺さぶりをかけた。
その瞬間、ヒカルの心に狼狽と胸を締め付ける想いが入り混じった感情が湧き上がり、
ヒカルの無垢な瞳を曇らせた。
空は雲が厚くなり陽が雲に隠れて辺りは薄暗くなり、やがて徐々に寒さが厳しくなった。

間もなくタクシーが来て、ヒカルはアキラを抱えて後ろの座席に乗り込んだ。
「お客さん、どちらへ行きますか?」と初老の運転手が行き先を訪ねた。
「おい、塔矢! 住所どこだっけ?」
「・・・。」
アキラは意識が朦朧としていて車に乗っているのも辛い様子だった。
とりあえずヒカルはアキラの体を座席に横たえ頭部を自分の膝の上にのせた。
アキラの艶のある黒髪がサラッとヒカルの膝一面に広がった。
すると、アキラは甘えるかのようにヒカルの体に自分の体を押し付け、
ヒカルの膝に顔を埋めた。
そんなアキラの態度に驚きつつ、ヒカルは 行き先は どうしようかと思ったが
自分の手帳にアキラの住所・電話番号が書いてあるのを思い出して、
バックから手帳を出し「すみません、ここへ行ってくださいっ!」と
運転手に住所を見せた。
自分の頭を包み込むように置く ぎこちないヒカルの手を『優しい手』だとアキラは思った。



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