盤上の月 21
(21)
「おまえが ちゃんと寝るのを見ないと不安で このまま帰れねえよ。
で、塔矢の部屋はどこだ?」
「・・ここだよ。」
部屋に入った途端、アキラは急に気が緩み体の力が抜け、ヒカルが支えている手からずり落ちた。
「ちょっと待ってろ! 布団敷くから。」
ヒカルは急いで押入れを開け手早く布団を敷いた。
「ホラ、塔矢とりあえず横になれよ。」
ヒカルはアキラのコートとセーターを脱がして上半身を紺のワイシャツだけにし、ズボンのベルト
を緩め、布団に横たわせた。
ヒカルは台所ではステンレスのボールを、また洗面所からタオルを捜し出した。ボールに氷と水
を入れタオルを浸して固く絞り、アキラの額の上に置いた。
「すまない進藤・・・。」
「もうしゃべるな 寝てろよ。」
ヒカルは心配そうにアキラの顔を見た。
「・・ありがとう。」
アキラはヒカルに微笑んで目をつぶった。自分の部屋に戻って安心したのか すぐ小さな寝息を
立て始めた。
それを見届けてヒカルは胸を撫で下ろしたと同時に部屋が ひどく冷え込んでいるのを感じ、
とりあえずエアコンをつけた。そしてアキラが寝ている脇で胡坐をかき、膝に右肘を立てて顎を
ついた。
静かな寝息を立てるアキラの寝顔をヒカルは しばらく眺めていた。
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