マッサージ妄想 26 - 30
(26)
途端にアキラが激しく咽込んだ。
いまだかつてないシチュエーションでアキラの口中を征服した感慨と余韻に目を閉じて
打ち震えていた社は、アキラの頭を押さえた手に伝わる震動でそれに気づき、我に返って
慌てて己をアキラの口から引き抜いた。
アキラは両手で口を押さえ、げほっげほっと背中を大きく揺らし咳き込んでいる。
(あ、あかん!オレいま何を・・・・・・!)
「スマン塔矢!ここに出しーや。無理させてスマン。ほんまスマン・・・・・・」
両手をぴったりと椀の形に作り、アキラの口元にあてがってやる。アキラは口を押さえたまま
プルプルと顔を横に振ったが、「エエから出し!」と強めの語調で促すと社の手を自分の両手で
更に包むようにし、口を開いた。ドロリとした白濁の液体が重たげに社の手の平へと流れ出る。
アキラの唾液と混ざって薄められていることもあるのだろうが、手の平を満たした予想外の分量に
自分がアキラに叩きつけた劣情の身勝手さを見るようで恥ずかしくなる。
口唇と顎と、白濁の海とを繋ぐ半透明の筋が次第に細くなり、途切れると同時に、アキラの眼から
涙が一筋零れ落ちた。
(今まで無理強いだけはして来んかったのに・・・・・・オレいう奴は・・・・・・最低や)
アキラにしゃぶり上げられ、搾り取られるようにその口中に放った経験は何度もあった。
今アキラの喉奥に欲望を吐き出したのも、行為としてはそれらと変わらないのかもしれない。
だがアキラの頭を押さえ込みその口中を穿つ間、自分は明らかに、普段思い通りにならない
尊大な相手を蹂躙し征服する感覚を楽しんでいた。
誰よりもアキラの信頼を受け安らぎを与えてやれるのは自分だと自負していたにも関わらず、
欲望に駆られてアキラに対しそんな感情を抱いてしまった内心の不実を恥じた。
荒い息をつき苦しそうにしているアキラを抱き締めてやりたくて、だが自分の両手は濁った
欲望の液で塞がっていて、社は取り敢えず両手を空けようと備え付けのティッシュを目で探した。
その社の手首をアキラが掴んだ。
(27)
ドクリと心臓が怯む。
アキラは社の手首をがっちり押さえ、その手の平に溜まった精液と唾液の混合物を眺め下ろした。
その視線に薄汚い自分を見透かされるようで泣きたくなる。
「と、塔矢、ホンマに悪かった。もうこんなこと二度と、」
叱られる予感に怯える子供のように涙声で謝ろうとした矢先、顔を上げたアキラの表情に社は
言葉を失った。
汗と涙と社の体液にまみれた顔で、アキラは勝ち誇ったようにニッコリと笑って見せたのだった。
次いでアキラは髪が落ちて来ないように両耳の辺りで押さえると、社の両手が作った椀に顔を伏せ、
ピチャピチャと赤い舌を躍らせて白濁の混合物を舐め取り始めた。
「ふっ・・・・・・ん、・・・・・・・ん・・・・・・」
「・・・・・・」
呆気にとられている社をよそに、アキラはかなりの量だったそれを喉を鳴らしながら平らげ、
社の両手首を掴み上げると手の平の皴や指の股に溜まっている分まで舌でこそげ取った。
自分の手首や顎、胸や腹部に落ちた分をも指で掬い上げ綺麗に舐め取る。
それから漸くアキラは、ふうっ・・・・・・と満足そうに息をついた。
「え・・・と、その・・・・・・怒ってへんの」
「え、何を?」
意外そうに問い返されて言葉に詰まる。アキラは指の甲で口元を拭い、少し頬を赤らめて言った。
「確かにさっきは、キミがボクから逃げるような素振りを見せるから頭に血が上っちゃった
けど・・・・・・でも結局こうしてたくさんくれた、から・・・・・・もういいよ」
手を伸ばし、社の人差し指を口に含むと強く吸い上げ、ちゅぽんと離す。
それからまたアキラは嬉しそうに笑った。
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(わからん・・・・・・健気なんか淫乱なんか、やっぱコイツ、オレの理解の範疇超えとるわ)
それが自分とアキラの器の違いを思い知らされるようでもあり、またアキラをこんな、
男の精液を舐めて喜ぶような人間に育て上げた誰かの影を見せ付けられるようでもあって、
胸のどこかがチクリと痛む。
だがあらん限りの媚態を尽くして男を誘い、満たされて無邪気に微笑むアキラはつくづく
愛おしいと思う。淫らで、憐れで、時に腹立たしくて、堪らなく愛おしい。
何でもしてやりたい。望むものを全部与えて満たしてやりたい。
そのためなら自分の人生すら捧げられる気がするのだ。
たとえ自分がアキラにとって一番の相手には永遠になり得ないのだとしても。
「ねえ、社?」
両手を後ろにつき白い脚を軽く開いてみせてアキラが言った。それはさっき自分の手が
さんざん揉みしだき、嬲りものにし、慈しんだ脚だ。
濡れた感触が手に甦る。
白い両脚の間に、赤らんだ欲望の証がドクドクと脈打って涙を流している。
その脈動につられるように新しい脈動が自分の体内に芽生え、然るべき場所に力を与えるのを社は感じた。
「さっき、ボクの欲しいものは全部くれるって言ったよね?ボクの欲しいもの、まだ終わってないよ」
「・・・・・・ああ・・・・・・そうやな・・・・・・!」
今は、何もかもどうでもいいと思った。
勢いよく覆い被さって抱き締めてやるとアキラの嬌声が耳に響く。
そのまま両脚を抱え上げて、深々と繋がった。
泣くような喜ぶようなアキラの声が、社の鼓膜と全身を蕩かした。
「やしろ、」
果てる直前の熱の中で、うわ言のようにアキラは囁いた。
「社は優しいから好き・・・・・・ボクはこんな人間だから、キミに理解してもらえない部分も
あるかもしれないけど、勝手だけど、それでも、優しくしてくれるキミが好きだよ・・・・・・」
ウン、ウンと頷きながらアキラを揺さぶって、白い手が撫でてくる頬は自分でも何が何だか
わからないくらい濡れていた。
やがて痙攣し締め上げてくるアキラの感触に、白い熱が網膜の裏で弾けた。
(29)
翌朝。
「洗面使い終わったよ、どうぞ。・・・・・・何してるんだい」
冷水で洗顔したために普段より少し血色が良くなっているアキラが勢いよく襖を開けた。
「うぉっ、いきなり開けるなや。洗面空いたか。オレも顔洗って来よ」
部屋の隅に向かって正座し何やら身を低くしていた社はサッと立ち上がると、
整髪料やら何やらアキラには正体もわからないものがどっさり入ったビニール製のバッグを
引っ掴んで洗面所へと消えていった。
(?これを見てたようだけど・・・・・・これ、お父さんたちへのお土産?)
アキラが洗面所にいる間社は交通機関の時刻表のチェックをしていたが、
ふと昨夜情事の最中にも見たアキラの両親への土産物である夫婦茶碗の桐箱が目に止まり、
思わず居住まいを正して深々と頭を下げたところだった。
だがもちろんアキラはそんなことは知らない。
まだ頬に残る水滴をタオルで押さえながら桐箱と、社の消えた襖の向こうとをチラッと眺めやると、
「ボクは、お片づけ!」
と一言呟きアキラは荷物の整理に取り掛かった。
「社、これ洗って返すね」
社が首にかけたタオルで顔を拭いながら部屋に戻って来ると、アキラは大きめの黒いTシャツを
膝の上で丁寧に畳みながら言った。
「あ?あ〜、アカンて!それはオレが持って帰るわ」
社の手がそれを引ったくった。
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昨夜ことが終わったあと、眠り込みそうになるアキラの頬をぴちぴち叩きながら
社はアキラに湯冷ましを飲ませ、身体を洗わせ、くしゃくしゃになった浴衣の代わりに
予備で持参していた自分のTシャツを着せてから寝かせた。
こざっぱりと乾いた黒Tシャツに包まれたアキラの身体はふんわりと石鹸の匂いがして、
裾から伸びた白い脚に、洗い落とせない赤い跡が幾つも散っていた。
「どうして?ちゃんとクリーニングに出すよ」
「そんでまた大阪に送り返すか?そんな手間掛けられへんわ」
「でも、ボクが着た物だし」
「アンタなあ、オレら昨夜ハダカの付き合いした仲やろが。今更ちょっとシャツ借りたくらいで
何ゆうとんねん。水臭いで」
ビシッと斜め角度で視線を決めながら言ってやった。
「そう?じゃあご好意に甘えさせてもらおうかな。・・・・・・これ、ありがとう。助かったよ」
「ん」
ぶっきらぼうな態度で、綺麗に折り畳まれた黒Tシャツを受け取りながら社が
(っしゃ――――――!塔矢ナマ着用Tシャツゲットォォォ!)
と心の中でガッツポーズしていたことなどアキラは知らない。
夫婦茶碗に向かって頭を下げようとやはり十代の煩悩が尽きることはないのだった。
スポーツバッグの中にせっせと荷物を詰め込んでいく社の手元を、既に荷物を作り終えて
しまったアキラはぼんやりと眺めた。
「荷物多いね・・・・・・社」
「出先で何があるかわからへんからな。予備の服に下着にタオルやろ、救急セットに七徳ナイフ、
ミネラルウォーター、懐中電灯に単3電池、おさいほーセットまで持って来とるで」
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