マッサージ妄想 56 - 60


(56)
確かにセックス時において普段の明晰さがまるで嘘のように乱れ、貪欲に快楽を求める
アキラの反応には社も驚くことがあった。
だが、アキラや社くらいの年代の男なら誰だろうと多かれ少なかれ頭の中がそういうことで
いっぱいになる時期はあるものだ。
アキラの場合はたまたま相手が男で、人より多少そうした欲求が強いというだけの話ではないのか。
「塔矢、それは・・・・・・まぁ確かに他の奴の人生狂わしたゆうのは問題か知れんけど、」
「キミも言ったよね?ボクは好き者で、ボクの身体はいやらしいって」
突然に、涙を湛えた目で昨夜の己の言葉を返されてショックを受ける。
「そ・・・れは言葉のアヤ言うか、セックスの最中にちょっと気分が高まって言うてもーたことやろ!?
実際セックスの最中なんて誰でもやらしくなるもんやん。俺かてそうや。こっちが一所懸命
色々したってるのにツーンとお澄ましされてたら、そっちのが興醒めやわ。好きモンおおいに
結構やん!オレはそう思うわ」
「でもそれって、好きな人とのセックスの最中に限ってなら、確かにそうかもしれない
けど・・・・・・ボクみたいに相手も所も選ばず年中サカってるなんて、やっぱりおかしいんだよ」
「サカッ・・・・・・」


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「こんな奴が、誰かとまともに一対一の恋愛関係なんて築けるはずがないよ。世の中には
色んな種類の人がいるだろうけど、その中にはきっと、“対”の相手がいる人といない人が
いるんじゃないかな。たとえば、・・・・・・お父さんには・・・・・・お母さんがいる。ボクが買った
夫婦茶碗みたいに。でもボクは、誰とでもセックス出来るけど誰とも“対”にはなれない。
欲が深くて、淫乱で、・・・・・・異常で、」
「待て、待て、ちょっと落ち着こ、塔矢。男なんてみんなそんなもんやで。オレかて、全然
面識もなければ好みでもないお姉ちゃんが髪掻きあげてるの見ただけでこう、クッと来ること
あるし。同級生かてみんなそんな感じゆうか、もっと全然アホアホやで。色々考え過ぎとちゃうかな」
だがアキラは頑なに頭を振った。揺れる髪の間から涙が光って散る。
「ボクが誰かを好きになっても、ボクがこんな人間だって知ったら、誰だって呆れて離れて行くって。
セックスは出来ても誰とも深くは向き合えない、一生一人の、出来損ないの子だって」
「なんやそら!そんなこと、誰かに言われたんかいな!?」


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つい大声を上げてしまった。
社に手を取られたまま、アキラの肩から腕にかけてが目に見えてびくっと竦む。
「あ、スマン・・・・・・、アンタを怒ったわけやあらへんで。そやけど、その理屈はおかしいわ!
一生一人で出来損ないってなんやねん!なんでそこまで決め付けられなアカンのや」
「・・・・・・」
「誰が言うた、そんなこと」
アキラは俯き押し黙っている。
「今付き合うとる奴の誰かか」
少ない情報量の中から社がまず考えたのは、アキラと関係を持っている男のうちの誰かが、
アキラが自分以外の人間とも寝ていることに腹を立て痴話喧嘩の際にでもそうした言葉を
投げつけたのではないかということだった。
アキラが複数の男と関係を持っていることを知りつつ交際を始めた社でさえ、独占欲が消えて
なくなる瞬間はひと時とてないのだ。
アキラの交際相手の中にはアキラの男関係を知らないまま付き合い始めた人物もいるのだろうし、
そうした人物がある日突然事実を知ったとしたら、怒りに任せてアキラの人格を否定する
ような言葉を投げつけてしまったとしてもおかしくはない。
――自分がアキラにとって一番の存在であり、アキラの最高の笑顔は常に自分一人に向けられる
ものと信じていたのが、ある日突然裏切られたのだとしたら。

だが、社の予測に反してアキラはきょとんと顔を上げた。
「付き合う?違うよ」
「なら、告られ・・・つっても通じへんか。えーと、告白されたのをフリでもしたんかいな」
「いや、そういう相手じゃないってば」
「そうなんか・・・・・・」


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付き合っているのでも告白されたのでもない、アキラにとって恋愛の対象と見られていないと
いうのであれば、アキラを愛してはいるものの想いを口に出来ないとか、そういった事情の
ある人物なのかもしれない。
だがどんな事情であれ、そんな言葉をアキラにぶつけるのは卑怯だと感じた。
アキラが自分のそうした欲求の強さに悩んでいるのだとすれば尚更、それを知った人間が
彼を理解し、自己否定に陥らないで済むよう手助けしてやらないでどうするというのだ。
アキラの口から出たとおりの言葉をその人物がアキラに投げつけたのだとすれば、
それはアキラに、お前は人を愛するなと宣告したも同然ではないのか。
アキラが誰かを好きになっても、アキラの性癖を知った相手はみな離れていく。その言葉が
アキラを縛り、人と深く関わることに対して怯えを抱かせている。
普段はどんな困難にも屈せず、確固たる信念をもって力強く道を切り拓いていくアキラだというのに。
(そんなに、コイツにとって影響力のある奴なんかいな)
アキラは、自分と父との関係を心配してくれた。優しい澄み切った眼差しで。
そして優しい自分が好きだと、その優しさを早く父親たちにも知って欲しいと言ってくれた。
その時自分は心の芯から温かくなるような感動を覚えたのだ。
アキラは自分では人のことを考えたり優しくしたりするのが得意でないと言っていたが、
ちゃんとそんな風に人を気遣い思いやる、柔らかな部分を持っている。
そしてアキラを知れば知るほど、普段は隠れているその柔らかさに触れてますます惹かれていく
自分がいるのだ。
性的な部分において多少ルーズな面を備えているにしろ、そのこと一つでアキラが誰とも
深く向き合えない人間であるなどとは思えなかった。
(少なくともオレは、コイツから離れる気になんて到底なられへんわ)


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その人物が何を思ってそんな言葉を吐いたのかはわからない。
だが手酷い決め付けるような表現の裏に、どこか自分の言葉でがんじがらめに縛り付けること
によってアキラを誰のもとへも行かせまいとするような、自分がアキラを手に入れられない
ジレンマをアキラを誰のものにもさせないことで晴らそうとしているような、
そんなどろどろとした意思が渦巻いているようにも感じられた。
(ソイツにも色々悩む所があるのかも知れん・・・・・・でも、そやからってコイツに当たること
あらへんのになあ・・・・・・)
自分の手の中で小さく震えているアキラの手に、胸が痛む。

それにしてもアキラをここまで縛り、強大な影響力で支配しようとするその人物とは誰なのだろう。
(・・・・・・塔矢門下の兄弟子とかか?さっきコイツと寝たせいで人生狂った棋士がおるゆう話
やったけど、まぁ確かに師匠の息子に手ぇ出す言うんは冒険やろうしな・・・・・・塔矢行洋て
直接会うたことあらへんけど、なんやマトモで厳格そうなおっちゃんやし、コイツのこと
エラく可愛がって育てたっぽいしなぁ・・・・・・)
チロリとアキラのほうを見る。
心乱れているせいか、涙の名残で濡れた眼を伏せ、落ち着きなく唇を噛んだり離したり
しているアキラは普段の態度からは想像もできないくらい頼りなげで、そしてやはり美しい。
どんな男も心迷うだろうというほどに。
(こんな子ォを手塩にかけて育ててお父さんお父さん言われてたんを、よその男に横から手ぇ
出されてたなんて知ったら、そらもう天地が引っ繰り返るほどショックやろなぁ・・・・・・その上
相手が門下生とかゆうたら、オレならもう即破門!抹殺!って勢いやわ。ん?)
頭の中で何かが繋がりかけて、繋がらないうちに消えた。



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