マッサージ妄想 3 - 4
(3)
ドーン!と胸を叩いて宣言したが思ったより反応は薄かった。
「マッサージ?出来るの?キミが?」
湯上がりの浴衣姿でしどけなく横たわるアキラに、胡散臭げな眼差しで見られてここで引いては男がすたる。
「ま、ええからええから、言われたとおりにしとき!『信じる者には福がある』って言うやろ」
「それって二つくらい諺、混ざってない?」
「こっちではこう言うんや!なんでもかんでも東京の物差しではかったらあかんで」
ほんとかなあ、とクスクス笑いながらもアキラは素直に身を倒し、ころん、とうつぶせの体勢になった。
その笑顔にほっとしながらもアキラの身体を前にして、はたと困ってしまった。目の前
にはアキラの脚が、紺地に白の桔梗を染め抜いた旅館の浴衣に包まれてある。
・・・・・・浴衣の裾を捲らなければマッサージが出来ない。
(裾上げな出来ひんって、塔矢もわかってるよな?いきなり捲ってキャッ、清春くんの
エッチ!な展開になったらどないしよう。・・・・・・コイツいかにも平気で人のこと蹴っ飛ば
したりしそうなキャラやもんな。いや、蹴っ飛ばされるのは別に構へんけど下心があって
提案したと思われたりしたら心外や!やっぱり事前に一言断ってからのほうがええよな。
よし、言うぞ。出来るだけ事務的にさり気なく・・・・・・)
スーと息を吸い込んだ瞬間、アキラがこっちを向いたので心臓が止まりそうになった。
「どうしたの。あ、浴衣の裾が邪魔?ごめんよ、気づかなくて」
何も言わないのにさっさと合点して、身体を少し浮かせ浴衣の裾を割るともう一度うつぶ
せの体勢に戻ってゆっくりと脚を上に向かって曲げる。
すとん、と紺色の裾が脚を滑り、膝裏の位置まで捲れる。
それから再びゆっくりと片足ずつ布団の上に下ろすと、目に眩しいような白いふくらはぎが露わになった。
「お願いします」
アキラが振り向いてにっこりと笑った。
(4)
「へえ、器用なんだね。社の指って、碁が打てるだけじゃないんだ」
アキラの左足の甲を自分の膝に載せ、両手の指を駆使して足指から足裏にかけ丹念に揉みほぐして
やると、相手は感心したような声をあげた。
「当然や。オレはナニワのゴールドフィンガーの異名を取った男やで?」
剥き出しの白いふくらはぎが目にちらついて誘っている。が、まずは手順どおりに身体の先端部分から
攻めていくことにした社だった。
「気持ちエエやろ」
「うん」
先刻までの胡散臭げな態度もどこへやら、アキラはおとなしく社に足を任せて枕を抱えうっとりと顔を埋めている。
やはり相当疲れが溜まっていたらしいと手に伝わる感触で感じた。
(やっぱりマッサージ提案してみてよかったわ。コイツいつも何かと肩に力入り過ぎやし、たまにはこうして
気ィ抜いてやらんとな。しかしこうして改めて見ると・・・・・・コイツ男のくせに可愛え足しとんのやなあ)
社の手の平にすっぽりと包み込まれた足は思ったより華奢で、ほっそりと形が良かった。
薄い薔薇色の足裏は滑らかで温かく、皮膚の薄い土踏まずの部分に細い静脈が青く透けて見え、
キュッと丸く引き締まった踵が動くたびに足首の細い腱が鋭く浮き上がる。
足の甲を少し持ち上げ角度を変えてみると、人形のように整った足指は先端に行くに従ってほんのりと桜色に染まり、
そこに小さい綺麗な爪が行儀良く並んでいる。
(なんやホンマに可愛らしなあ。足なんて今までじっくり見せてもろたことなかったけど、こら新発見や。
目に焼きつけとこ)
明日の夕方にはアキラは新幹線に乗って東京へ帰る。次にまたこの足に触れられるのはいつの日のことか。
慈しむように小さな小指を引っ張り、ついで足指の股の狭い部分に指を捩じ込んで強めに揉むように
してやると、足はくすぐったそうにピクン、ピクンと痙攣して逃れようとした。
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