盤上の月 30


(30)
晴美に礼を言い駅に入って電車に乗った途端、ヒカルは一気に疲れが出た。自分が今 起きている
のか夢を見ているのか分からなく、目は虚ろで焦点が合わないまま電車の手すりを握り振動に
揺られていた。家に着くと、すぐ母親が飛んできて遅くなるなら電話をしろと ひどくヒカルを
叱ったが、うわの空で全然耳に入らない。遅い夕食をとるが砂を噛んでいるようで味がしなく、
部屋に上がりそのままベッドに倒れこんだ。
ベッドに顔を埋めた瞬間、ヒカルの脳裏にアキラの燃えたぎる瞳と激しく抱き合った事が
次々と浮かぶ。アキラの唇・手が触れた部分が疼き体が熱くなるのを感じ、ヒカルは そんな
自分を激しく嫌悪した。一般の同じ年の少年よりヒカルは性的に無知で幼いところがある。
自分でする事も ほとんど知らない。
「だあぁっ〜、オレは いったいどうしたんだぁっ!?
オ、オレ塔矢と・・・・キス・・・し・・・・・た。い、いやっ それどころか・・・もう少しで・・・・・・」
ヒカルは恥ずかしさで顔が一気にカーッと赤くなる。いたたまれなく いてもたってもいられず
部屋で大声でわめき、ベッドの上で手足を思いっきりバタバタさせた。
「ヒカル夜遅くにウルサイわよ、いいかげんにしなさいっ!」
母親が階段下から注意する。が、ヒカルの耳には入らない。カンカンに怒り母親は部屋に入ると、
 そこにはベッドの上で顔を真っ赤に高揚して足をジタバタし、両手は頭を押さえ体をそり返して
苦悩のポーズをするヒカルがいた。
「・・・・・・ア、アンタ・・・何やってるのぉおっ!?」
呆気に取られて部屋に立ち尽くす母親にヒカルは やっと気付いた。
「うわあっ!? おっ お母さん、オレの部屋に勝手に入ってこないでよっ!」
痴態を見られた事に よりいっそう顔を赤らめてヒカルは慌てふためき、枕で自分の顔を覆い隠す。
また同時にアキラに強く つかまれた腕がズキンと痛み、思わず顔をしかめた。
「いつまでも騒いでないで、今日は さっさと寝なさいっ!」
母親は呆れながら怒鳴って部屋を後にした。



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