マッサージ妄想 31 - 32


(31)
得意気にこまごまとした物を陳列し始めた社をアキラは慌てて制した。
「み、見せてくれなくてもいいから」
「そうか?」
残念そうに口を尖らせて、一度出した物を元あった場所に戻し始める。それらはアキラと
出歩いていて万一の事態があった時のために持って来たという面もあったが、普段から
自分は何かと用意のいいほうだと社は思っていた。
「でもこんな色々持ってたら、いざという時オレと一緒におったら安心やろ。なあ、塔矢」
「確かにそうだね」
クスッと笑ってアキラが頷く。肯定されたことで気分が高揚し、浮かれた口が勝手に動く。
「オレ言う男は、準備がエエだけやないで。喧嘩は負けたことあらへんわ土地勘あるわ
歌は上手いわ炊事洗濯、お疲れの時のマッサージまでこなす!顔はこのとーりのオットコ前
やしなぁ。碁は・・・・・・今はアンタに敵わんけど、精進してもっともっと強なるわ。
なぁ、なかなかお得な男やと思わへん?」
「思う、思う」
アキラがクスクス笑いながら調子を合わせる。
「そやろ!?そやから、」
ふっと静かな声になって、社の手がアキラの頬に触れた。
「そやから・・・・・・オレがいつもアンタの側におって、ずーっと世話して守ってやれたら
エエのにな・・・・・・・」

しばらくそうして見つめ合っていた。
やがてアキラが視線を落とし、一筋の乱れもない前髪を僅かに揺らしてきっぱり言った。
「ダメだよ」


(32)
(ダ、ダメて・・・・・・無理とかじゃなくダメて・・・・・・!折角ええムードやったのに、そんな
アッサリキッパリ否定せんでもええんちゃうかー・・・・・・)
ショックを受けている社に向かって、アキラは姿勢を正し懇々と説き聞かせるように言った。
「社、キミにはこちらにご両親がいらっしゃるじゃないか。学校や仕事だってあるし・・・・・・
そんなキミに、ボクの側にいてもらうことは出来ないよ」
「そらま、そやけど・・・・・・」
憮然として唇を突き出す。社とて本当にそんなことを実現しようと思えば数々の困難が伴うことは
知っている。プロとは言え駆け出しの自分が、今すぐそれを実現出来るだろうとも思えなかった。
だが、たとえ今は無理でもいつか本当にそんな風になれたらいいね、そうだね、という温かな
気持ちの通い合いのようなシチュエーションを期待していた身としては、
こう理詰めで説かれるとむきになって言い返したくなってしまう。
「学校は親に行かされとるだけや。その親とは折り合い悪いし、こっちでの生活全部捨てて
アンタの側に行くゆうことも出来るんやで」
「何を馬鹿なことを言っているんだキミは!」
「馬鹿なことやない!オレ本気で考えとるわ、いつか・・・・・・」

ずっと胸に秘めていた計画を言いかけた矢先、襖の向こうでドアをノックする音が響いた。
アキラが立って開けに行く。明るい女の声音と穏やかに響くアキラの声音が交互に聞こえて、
アキラが先ほどの言い争いなどなかったような顔で戻ってきた。
「社、朝食の用意出来てるって。行こう」



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