盤上の月 32
(32)
「進藤が家に来てたの!? よく覚えていない・・・・・」
──そう言われれば熱でうなされたとき、進藤の顔を幾度か見たような気がするけど・・・・。
アキラは ほとんど記憶がない事に愕然とした。
「仕方ないわよ。だってアキラくん40℃近くの熱があったのよ。
もう少し横になっていれば? あとで病院に行きましょ」
晴美はそう言うと、洗濯カゴを持ちながら軒先に座りサンダルを履いて庭に出た。
「あっ、ボクも手伝うよ」
「いいのよ、まだ微熱あるんだから また上がっちゃうわよ。今日は暖かいわね。
昨日降った雪、すぐ溶けちゃったみたい」
アキラを諭して晴美は庭の隅にある物干し竿に、手早くタオルなどを干し始める。
軒先にアキラは腰をかけた。晴天の冬の日差しは暖かく肌に照り、心地良いそよ風が頬を
撫でる。
「市河さん、随分お世話をかけたみたいで すみません」
洗濯物を干す晴美の背中に向かって申し訳なさそうにアキラは言った。
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