マッサージ妄想 33 - 34
(33)
その日アキラは夕方の新幹線に乗って帰ることになっていたので、それまでの半日は一緒に
過ごすことが出来た。
アキラは終始楽しそうにしていたが、社としては朝言い争った内容が心に引っ掛かり
今一つアキラとの時間を満喫し切れないでいた。
(側にいたいゆうてあんなキッパリ断られるなんて・・・・・・塔矢にとってオレの存在てどんな
なのやろ。たまに会うて、セックスして、やっぱりそれだけなんかな・・・・・・)
アキラにとって一番の存在にはなれないのだとしても、いつか東京に行って
いつもアキラの側にいられるようにして守ってやりたいというのは、アキラと初めて関係を
持って以来長らく社が温めてきた夢だった。
その夢すら迷惑だと一蹴された気がした。
凹んでいる社をよそに、アキラは道を一本入ったところに和雑貨の店を見つけ「ちょっと見てくる」と言い残してさっさと入っていった。
木造の店内はしっとりと落ち着いた雰囲気で、他に客はいないようだった。
アキラは小柄な老年の店主に手伝ってもらいながら東京の知り合いへの土産を見繕っているらしい。
若いのに礼儀正しいアキラに好感を持ったのか、店主はニコニコ顔でアキラに付き添い、
丁寧な態度で相談に乗っている。アキラも店主の言葉に熱心に耳を傾け、社が入ってきた
のにも気づかない様子だった。
「おい、塔矢」
声を掛けると、店主がジロリと片眉を上げて社の頭髪の辺りを見遣った。
(うっ・・・・・・)
(34)
思わず頭に手をやる。小学生時代からの付き合いの碁会所のおっちゃんたちならともかく、
この頭髪の色がこの年代の大人たちに決して受けが良いとは言えないことを社は知っていた。
そもそも髪をこんな色にしようと思ったこと自体、父親への反抗心から来る露悪的な動機に
根ざしてはいたのだが。
その色を見て店主は露骨に眉を顰めて目を逸らし、小さく首を振った。近頃の若い者は、
とでも言いたげな態度だ。
そんな店主の態度に思わず唇を尖らせながらも、社はしゅんと肩を落とした。
「社」
アキラがこちらに気づき、振り返る。
「ごめん、少し待っててくれるかい。お土産を見たいんだ」
「ああ、ゆっくり選んでくれたらエエで」
できるだけ優しく答えると、社はそのまま店の入り口を入ってすぐの所でアキラを待つことにした。
店主の態度を除けば、店内はこぢんまりと趣味良くまとめられており、なかなか快適だと
社にも思えた。外に比べるとやや薄暗いくらいの照明に、軒先に吊られた少し時期の早い
風鈴の音が涼しさを添えている。静かな店内に穏やかに響くアキラの声音が心地良かった。
「・・・・・・彼はこちらでの友人なんです。それで昨日今日と大阪を案内してくれて・・・・・・」
「ほお、そうですか。ただ、若い頃の友達いうのは一生を左右しますからなあ」
店主は初対面のアキラをいたく気に入ったらしい。いかにも坊ちゃん育ちなムードを漂わせて
いるアキラが、こんな不良のような髪をした「友人」に連れまわされているのが心配で
ならないらしく、勝手なことを言っている。
(なんやエライ失礼なおっちゃんやなぁ。塔矢とオレがどんな関係やったかてアンタに関係
あらへんやん。アホらし。やっぱり、外で待っとこ)
踵を返し手動扉を押して外へ出ようとした時、窓辺に並べられた瀬戸物の一群が目に入った。
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