盤上の月 34


(34)
──大空に飛んでいくあの鳥・・・なぜか進藤の姿と重なる・・・・・。ボクは幼い頃から厳しい勝負の世界
に生きるお父さんの背中を見て育った。また同時に他の棋士達の生き様も見てきた。
病に身を冒されながらも対局を優先して命を縮めた棋士や、自分の碁に疑問を抱き、新しい棋風を
築こうとして失敗し落ちぶれていく棋士。いろんな人達を この目で見てきた。
もともと生まれ持った性分もあるかも知れないけど、過酷な世界を見続けてきたボクは、碁にも
生きる事も全て辛辣に考え込んでしまう傾向がある。
それに比べて進藤は ただ ひたすら碁を打つことに何よりも喜びを感じ身を投じている。
明るく真っ直ぐ前だけを見て、何事にも恐れずに突き進む強さに・・・男とか女とか関係なく、
そんな進藤自身にボクは強く惹かれ、目が離せないのかも知れない・・・・・。
空に溶け込むように姿が遠くなっていくヒヨドリをアキラは自分の視界から消えるまで見送った。
陽の光がさんさん降り注ぐ庭に軽風がそよぐ。ザワザワと木々の葉擦れる音が辺りを包み、
地に淡い影を落とす木陰が揺れた。

晴美は出来立ての雑炊を居間のテーブルに置いた。そしてアキラを呼びに奥の廊下から顔を出すが、
軒先に座るアキラの寂寞とした横顔に何か近寄り難いものを感じ取り、喉から出かかった言葉を
飲み込んだ。
──・・・・アキラくん・・・・・・何か深刻な悩みがあるのかしら・・・・・?
体は そこに存在するが、心は何処かへ置き忘れている―――。
そんなアキラの様子に晴美は とても声を掛けられなく、しばらく廊下に佇む。
ふとアキラは人の気配を感じて廊下に視線を移すと、廊下の奥に晴美が立っている姿が目に入る。
「あっ、市河さん」
「・・・・・・・お雑炊できたわよ。食べれそう?」
「うん、食べるよ。早く体調を戻さないとね」
顔から翳りを消してアキラは、精一杯の笑顔を晴美に向けた。



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