マッサージ妄想 35 - 36


(35)
中に一対の夫婦茶碗がある。
(コレ、昨日塔矢が買っとったやつとちょっと似とるなぁ・・・・・・)
箸置きや香炉や猫の置物などが所狭しと並べられた中、白地に薄青色の鞠を配したその茶碗は
なかなか渋い存在感を放っている。社はそれを手に取って眺めてみた。
(ふんふん、なるほど、こっちの大っきいほうを亭主が使うて小っさいほうを嫁はんが使う
いうわけや。女はあんまり食べへんもんな。でも塔矢くらい少食やったら、こっちの小っさい
ほうでもいけるのかも・・・・・・)
ふと、東京へ行った自分とアキラが何故か一緒に暮らしていて、揃いの夫婦茶碗で食事を
摂っているという風景が目に浮かび、しばし社をほわんと甘い気分にさせた。

「・・・・・・しろ。社」
「ぉぅわっ、なんやねん」
甘い夢に浸っていたさなか急に耳元で声をかけられて、手にしていた茶碗を取り落としそうに
なる。慌てて両手でしっかりと抱えなおした。
(ふー、セーフ)
「待たせてごめん。今包装してもらってて、もう少しかかるみたいなんだ」
「オレはちっとも構へんで。エエの見つかったんか」
「うん、思ったよりたくさんになっちゃった。社は何を見てたんだい。・・・・・・それ、」
「あ、・・・・・・コレは・・・・・・」
隠したくても隠す場所がない。社の手に包まれた女茶碗と、それと揃いの男茶碗をアキラが
じっと見ている。甘い空想を見抜かれるようで顔が熱くなる。アキラにとって自分は彼を
取り巻く男たちの中の一人に過ぎず、自分が彼と「一対」の存在になる日など来ないのだと
どんなにわかったつもりでも、ふとした瞬間についこうして身の程知らずの夢を抱いてしまう。
少し物寂しさを覚えつつ、社はそれを元の場所に戻した。
「・・・・・・なんでもあらへん。色んな種類があるもんや思て、見てただけや」
「・・・・・・」
しかしアキラは茶碗と社を交互に見つめると、意を決したようにきゅっと唇を引き結ぶと、
一対の茶碗を抱えレジへ向かった。
「おいっ、塔矢!?」


(36)
「スミマセン、これもお願いできますか」
「お土産用で?」
「はい」
店主は大きさを確認すると、包装用の箱を探しに奥へと引っ込んでいった。
「塔矢、あれ・・・・・・あ、そうか、お父さんお母さんにもう一揃い買うて行くん」
「違うよ」
アキラは横顔で答え、また唇を引き結んだかと思うと、くるりとこちらに向き直った。
「あれはキミに・・・・・・」

真摯な瞳がまっすぐに自分を映している。社の心臓にズシンと衝撃が走った。
アキラはこれから何を言おうというのだろう。もしや、アキラもまたあの夫婦茶碗を自分と
分け合って使いたいというのではなかろうか。
(あ、でもオレら今東京大阪で離れ離れやん。・・・・・・イヤ、それならそれで会えない間
夫婦茶碗の片割れを使い合うゆうのもロマンやで!)
今度は大阪にいる自分と東京にいるアキラが同じ時間帯に、揃いの茶碗で、それぞれの屋根の下
米飯を掬っては口に運んでいる風景がもわわんと辺りに広がった。
互いの家族に知られることなく、二人で一対の茶碗を使い合う。離れていても心は一つだという
約束事のように。
(それって、めっちゃ、エエやん)
だがアキラの口から飛び出したのは別の提案だった。
「・・・・・・あのお茶碗、キミに持って帰ってもらって、キミからご両親に渡してもらえたらなっって」
「へ?」



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