盤上の月 4
(4)
晴美は皿を片付けながらアキラから穏やかならぬ雰囲気を一瞬感じたが、
「気のせいかしら?」と あまり気に留めなかった
雑用が片付くと晴美は受付台からアキラとヒカルの姿をしばらく眺めていた。
アキラがプロになったヒカルを碁会所に連れてきた時、アキラと同じに またそれ以上に
喜んだのは晴美だった。
幼い頃から大人達に囲まれて育ち、また碁の才能に秀でたアキラは精神的成熟が早く、
同じ年頃の子供とは遊ばず よく1人で碁を並べていていたらしい。
大人しくて礼儀正しく碁の才能に満ち溢れ、また世界の囲碁界のトップに立つ父を持つアキラは
碁会所の客達から いたく可愛がられていたと古参の客から聞いた事があった。
その話を聞いて どことなく晴美には幼い頃のアキラが寂し気に感じた。
15歳にしてアキラが やっと対等に付き合える同年代の友達が出来た事が晴美には
自分の事のように嬉しく感じていた。
アキラがヒカルと碁の研究で つい声を荒げて発言してしまうのも本音がストレートに
出ている証なので、つい晴美の目には好ましく見えてしまう。
ヒカルと一緒にいる時が一番イキイキとしていて、年相応の15歳の少年の姿が垣間見れるようにもなった。
実際 ヒカルの棋力がどれだけすごいかは晴美には分からないが、天才と言われているアキラが唯一
意識している棋士なので単純に「すごく強い」という感覚しか持っていない。
でもヒカルが棋士として強いかは晴美には あまり関心がなく、ただアキラと対等に付き合える友達が
出来た事のほうが嬉しいというのが正直な気持ちだった。
アキラとヒカルを見守る晴美の目は、どこまでも限りなく優しい。
その時 常連の客の1人である北島が店に入ってきた。
「よう 市ちゃん、今日 若先生いらっしゃるかい?」
「いらっしゃい、北島さん。ええ来てるわよホラ、あっちで進藤君と一緒に打ってるわ。」と
晴美は2人を指で差した。
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