マッサージ妄想 43 - 44
(43)
言ってしまった。アキラの聞いている前で。
だがこれが偽らざる自分の気持ちなのだ。
どんなに表面を取り繕って「大勢の中の一人」という立場に甘んじているよう見せかけたとしても、
自分の中には常にアキラの隣に立つ唯一の一番の相手になりたい、アキラを独占したいという
願望が欲深に滾っている。
対の食器が欲しいと口にしたことで間接的にとは言え、これまで押し隠してきた願望の一端を
晒してしまった。
そのことにかすかな後悔を覚えながらも、不思議とすっきりした気分で社は顔を上げた。
店主が腕を組み難しい顔をこちらに向けている。・・・・・・なんやねん。
半ば開き直って唇を突き出し睨み返す。
と、店主が「あ」と口を開け、ポンと自ら片手の手の平に拳を当てた。
「ほなら、坊ん達にピッタリなんがあったわ。アレならええ、待っとき!」
やたら張り切った様子の店主が奥へ引っ込み、社とアキラは静かな店内に再び二人きりで取り残された。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・。塔矢。・・・・・・今の話やけど」
言いかけて横を見ると、アキラはぼんやりと表情なく、日に照る瀬戸物の群れを眺めていた。
淡い金色の西陽が美しい顔をまともに照らして、長い睫毛の縁を光の色に輝かしている。
それがあまりに綺麗で、社は後に続く言葉を見失った。
対のもの、独り身のもの、色とりどりの群れを眺め下ろしながら、
「ホントに色んな種類があるんだね」と独り言のようにアキラが呟いた。
店主が戻って来た。
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「ホラ、何しとんのや、坊ん達。こっち来ーや」
「・・・・・・」
ぼんやりと群れを眺めるアキラが、自分の言葉をどう受け止めたのかが知りたかった。
だが、とりあえず店主が手招きするレジのほうへとアキラを促し二人で向かった。
店主はニコニコしながら箱を開け、包紙の中から紺色の二つの器を取り出してみせた。
「コレな、夫婦湯呑みのつもりで買い付けてん。そしたら間違うて男湯呑みが二つ入っとった。
片方送り返して女湯呑みと併せて売るつもりやったけど、まぁこの二つが一緒になっとったのも
何かの縁かも知らんしな。もし坊ん達が欲しい言うなら、このまま譲るわ」
「おっちゃんそれ、送り返すの面倒で言うとるんちゃうやろな」
「アハハ、それもある。でもコレなら一応“対”言えんこともないし両方男物やし、坊ん達に
ピッタリや思おてな。柄もちょっとエエ風情やろ。じっくり見てや」
(なんやホンマにお節介ちゅうか強引なおっちゃんやわ。・・・・・・どうせなら塔矢と二人で
選びたいんやけどなぁ・・・・・・ん?)
手に取らされた湯呑みの色柄を見て、呼び覚まされるものがあった。
紺地に白の桔梗模様。それは、
――昨夜オレたちが着とった浴衣や。
それに気づいた瞬間、昨夜アキラと共に過ごした時間の様々な記憶が身体全体に甦った。
紺の裾がすとんと捲れて、その中から現れた眩しいようなふくらはぎ。
アキラに誘われて、すらりとした両脚も白い尻も全部剥き出しにさせて、
糊の利いたあの浴衣はいつの間にかくしゃくしゃになっていて、自分のものと一緒に部屋の隅に
放り投げられた。
ぐっしょり濡れていた二つの浴衣と、更に熱く濡れて湯の中にいるように抱き合った記憶が
瞬時に駆け抜ける。
湯呑みを持つ手がぞくりと震えた。
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